2017/11/12

働く犬に思う、それ本当にその犬に向いている?

(photo by WerberFabrik )

1ヶ月ほど前、CIA(Central Intelligence Agency=中央情報局)のブログに登場する犬たちが話題になりました。

CIAって、映画やドラマでスパイとかエージェントとかって出てくるあのCIAです。
え?そのCIAがブログ?しかも犬?って思いますよね。私も最初二度見しました。

国家の最高機密を扱う機関ですから、警備も最高レベル。施設では爆発物探知犬も任務についています。その探知犬たちはCIAが自前で訓練しているんだそうです。
ブログに登場したのはその訓練所に新しく入った犬たちのトレーニング日記。

興味深いと思ったのが、探知犬の候補を選ぶのにCIAのトレーナーが足を運ぶのは盲導犬など介助犬の訓練施設なのだそうです。そこで介助犬には向かないとされた犬をスカウトしてくるということ。
落ち着いていて我慢強く任務を遂行する必要のある介助犬と爆発物探知犬では求められる適性が全く違うそうです。言われてみれば、そりゃそうだって思いますね。

今秋の新入生としてスカウトされた6頭のラブラドールたちは全員介助犬になるにはエネルギッシュでハイパー過ぎると言われた犬たち。でもそのエネルギッシュさと好奇心は探知犬に必要な適性なのだそうです。

探知犬としての訓練を始めて2週間ほど後に、その6頭のうちのルルという黒ラブが「探知犬に向かない」として訓練から外されました。
SNSなどで話題になったのはこのルルのことでした。

ルルは決して能力が劣っていたわけではなかったようです。目的物をニオイで探すテストなどもちゃんと出来ていたそうです。ではなぜ訓練から外されたか?

トレーナーが言うには「ルルは訓練自体を全く楽しんでいなかった。時には命の危険もある任務に就いてもらうのに、好きじゃない楽しくないことを犬に強いることはできない。」とのことでした

ルルは2週間訓練を共にしたハンドラーの家庭に引き取られ、幸せな家庭犬として暮らしています。

私はこの話を読んでとても強い感銘を受けました。
介助犬と探知犬の適性の違いの話も深くうなずきましたし、何と言っても適性というのはただ単に「できる」というのとは違うのだという認識!
人間のために働いてくれる犬がその仕事を楽しんでできるかどうかに重きを置くという姿勢に嬉しくなりました。

(CIAの探知犬訓練日記はこちらで読めます。)

同時に思い出したのは7年前に自分のブログにも書いた、何度も何度も嘱託警察犬の試験に失敗したのに「努力」の末に合格したとして映画化までされたラブラドールの話でした。
あのブログ記事、かなり怒って書いたから今読むと激しいんだろうなあと思いながら読み返したら、確かに今なら使わないような言葉で書いているものの「なんだ、マトモなこと言ってるじゃないの」と思いました 笑。当時の自分にうん、そうだそうだって賛同しましたよ。)


そんなことを思っていたところに、昨日たまたま大手新聞のペット関連のサイトで、ある記事が目に入りました。

嘱託警察犬の試験に2回目で合格したという小型短頭種の犬のことを書いた記事でした。

(photo by carlosleucipo )

記事の中では「しつけ教室のトレーナーから、この子は物覚えがいいので警察犬に挑戦してはどうかと言われたのがきっかけ」と書かれていました。

家庭犬のしつけ教室の訓練で(いくら嘱託とは言え)警察犬の適性などわかるのか?

小型犬でも猟犬種ならまだしも、もともと愛玩犬として作られた犬種。しかも他の犬よりも嗅覚が発達していないと言われる短頭種。
犬自身が訓練を嫌がることもあったとか、物をくわえるのが苦手だったと記事に書かれていました。口の構造上、物をくわえるのが苦手なんて見ればわかることです。

CIAのルルの話を目にした後だったので、余計にこの記事を読んで心底がっかりしました。

ある任務について適性がないというのは、劣っているということではないし、克服しなくてはいけないことでもありません。
それを「努力」と呼び「美談」としてもてはやすのは人間のエゴだと私は思います。

犬は訓練次第で人間のために仕事をしてくれます。けれども彼らは言葉で「できるけど好きじゃない」とか「大好きな人がやれというからしてるけど本当はやりたくない」とか言うことができません。
だからトレーナーや飼い主は「できる/できない」だけでなく、本当に向いているのか、イヤイヤやっていないかをちゃんと見極めてやらなくてはいけません。

そして、犬の適性を無視して「努力して苦手を克服した素晴らしいストーリー」を作り上げるメディアに対して「おかしい」と思う感覚を忘れずにいたいものだと思います。



受刑者と犬のセカンドチャンス

働く犬のことを書きたいと思ったので、関連するdog actuallyの過去記事をアップしておきます。

この記事は2013年に書いたものですが、刑務所の受刑者がシェルターの保護犬を訓練するプログラムは現在も順調に増えています。
家庭犬としてのシンプルな訓練から、心的外傷を抱える退役軍人などをサポートするサービスドッグまで多彩なプログラムが展開されています。
フロリダの保安官事務所では刑務所で訓練を受けたサービスドッグを迎えて、犯罪被害者の事情聴取の際のサポートを担当してもらっている例もあります。精神的にダメージを負っている被害者、とりわけ被害者が子供の場合にはサポート担当のサービスドッグがそばにいるだけで、被害者の気持ちが和らぎ聴取がスムーズに進むそうです。

受刑者、保護犬、社会全体のすべてにメリットがあるプログラムはこれからも伸びていってほしいなと思います。

(photo by paulbr75 )


(以下dog actually 2013年7月1日掲載記事より)

つい先日、島根県の社会復帰促進センター(刑務所)から「刑務所育ち」の盲導犬第一号が誕生したというニュースが報道されましたね。現在、日本で犬の訓練を行っている唯一の刑務所です。
このような刑務所での受刑者による犬の訓練については、アメリカに一日の長があります。今日はアメリカの刑務所で暮らしている犬達のことをご紹介します。
刑務所で受刑者のためのプログラムとして犬の訓練が取り入れられたのは、1981年ワシントン州の女性刑務所が最初でした。当時、財政難のために満足な更正プログラムもなく、まともな運営も出来ていなかった刑務所の現状を見かねた修道女のシスター・クインがプロのドッグトレーナーと共同でプログラムを作り導入したのでした。
当初は盲導犬や警察犬候補の子犬達を受刑者がトレーナーと共同で訓練して、立派な職業犬に育て上げるという島根のやり方とよく似たプログラムでした。
一般的なトレーナーと違って、受刑者達は犬と24時間、常に一緒にいることが出来ます。その分訓練も早く修了することができ、受刑者達は責任感や達成感、そしてドッグトレーニングのスキルを身につけることができるというこのプログラムは、すぐに他州からも取り入れたいという声が多数届き、現在アメリカのほとんどの州で受刑者による犬の訓練プログラムが実施されています。
国内だけにとどまらず、シスター・クインはこのノウハウを伝えるべくヨーロッパにも出向いて、イタリアの刑務所などでプログラム導入の指導を行っています。
ワシントン州では当初は女性刑務所だけでこのプログラムを行っていたのですが、この2~3年の間に男性刑務所でも犬の訓練をスタートする所が出て来ました。
訓練するのは地元のアニマルシェルターから連れて来られた犬達です。預かり期間を過ぎても引き取り手がなく殺処分にするしかないという犬達が、受刑者によって家庭犬としての訓練を受けて新しい家族の元へと送り出されています。

一般のシェルターでは、問題のある犬一頭一頭にじっくり向き合って訓練するだけの時間も人手もないのが現状です。時間さえかければ良い家庭犬になる可能性のある犬達が、受刑者によってセカンドチャンスを与えられるというわけです。
犬達は平均12週間の訓練期間を過ごし、基本的なコマンドやトイレの躾、人に飛びつかない事、人間や犬同士の社会化を身につけるので新しい家族を見つける事はずっと簡単になります。
犬にとって素晴らしいだけでなく、受刑者が犬と暮らすようになってから刑務所内での暴力沙汰が著しく減少したことも報告されています。
全ての受刑者が犬の訓練プログラムに参加できるわけではないのですが、参加者の再犯率はほぼゼロに近く社会復帰も容易だと言います。これは社会全体にとってもありがたいことですね。
こちらはルイジアナ州の刑務所で暮らす犬達の動画です。

この刑務所では、刑務所の施設内にアニマルシェルターを作るという大胆な試みが成されています。
シェルターには犬だけでなく猫も収容されており、42匹の犬と17匹の猫を5人の受刑者とシェルタースタッフが世話をしています。
掃除、食餌の世話、運動、訓練と、1日のほぼ全てが動物の世話に費やされます。動物を引き取りたい希望者は直接この刑務所内のシェルターを訪れる事ができます。
あのハリケーンカトリーナの際には、避難してきた動物達を所内のシェルターで一時預かりし、受刑者達が米国動物保護協会と共同で動物の世話をしました。
いかつい外見の受刑者達が愛おしそうに犬を見つめ、犬も信頼し切った様子でリラックスする姿を見ると、確かに彼らがお互いに助け合っているというのが実感できます。

また、カリフォルニア州では少年院での犬の訓練プログラムを積極的に取り入れています。

ここでも犬達は、ローカルのアニマルシェルターから来ています。受刑者の年齢が若い分、犬を通して責任感や連帯感、そして愛し愛される事を学んだ彼らは、高いレベルでの社会復帰が期待できます。
社会復帰の助けと言えば、アリゾナ州の女性刑務所ではアニマルシェルターから来た犬達の訓練に加えて、犬のシャンプーやトリミングを行うグルーマーの資格をとる支援をしている所もあります。
シェルターの犬達は綺麗にしてもらって基本的な訓練も終えて、新しい家族の元へ送り出されます。出所後の受刑者が再犯に走ってしまう主な理由は、仕事が見つからず経済的に困窮してしまうことです。手に職をつけて刑務所を出ることが再犯率の低下に大いに役立っています。
これら刑務所の受刑者とアニマルシェルターの犬達を結びつける活動は、民間のNPO団体が間に入って仲介や指導を行っており、ほとんどの場合税金が使われることはありません。
残念ながら、アメリカ全体で見れば犬の訓練プログラムを取り入れていない刑務所も多く、全国の犯罪率も年々少しずつ増加しています。
素晴らしい可能性を持ちながらも引き取り手がなく殺処分となっている犬もたくさんいます。

受刑者にも犬にも社会にも大きなメリットのあるこのプログラム、アメリカでもますます広がっていって欲しいと強く願います。
そして日本でも刑務所と動物愛護センターのコラボレーションが実施されて、多くの人間と犬が救われる日が来て欲しいものですね。

2017/11/04

カリフォルニア州のペットショップでの生体販売禁止の法律に反対した団体

(photo by Skitterphoto )


さて、前回からの続きです。

商業的に繁殖された犬、猫、うさぎを店頭で販売することを禁止するカリフォルニア州法の法案が提出された時に、当然ながら反対派も存在しました。

ペット業界合同諮問委員会や、ブリーダー及びペットショップなどの小売業協会は生産した(イヤな言葉ですね)動物を販売する機会が減るわけですから当然反対の立場でした。

そして反対派の筆頭に立ったのはアメリカンケネルクラブ(AKC)でした。
(AKCはパピーミル撲滅運動などの際には毎度毎度大規模な反対運動を展開するんですけれどね。)

今回のAKCは「この法律によって、カリフォルニア州のペットラバーは選択の幅が狭められ欲しくもない保護犬を押し付けられることになる。一般の人が犬に関する知識を持った専門家や責任ある良質なブリーダーに接触することをできなくするものだ。」というキャンペーンを実施しました。

これは言うまでもなく大ウソ誤りで、保護犬ではない純血種の犬を迎えたい人は小規模に家庭などできちんとブリーディングをしているブリーダーにコンタクトを取ることができます。
(ブリーダーに認められないと子犬を譲ってもらえないとか、何年も待たなくてはいけないとかいう場合はありますけれどね。)

きちんとしたシリアスブリーダーなら、ペットショップに子犬を卸すことなどあり得ないので、この法律が成立しても何の影響もありません。

反対派のブリーダーの中には
「この法律が施行されると、隣国のメキシコだけでなく遠く離れたエジプトや韓国などから犬を連れてきてペットショップで販売されるようになる。これらの国の犬は恐ろしい伝染病や寄生虫を持っているのが普通である。」と主張して、署名サイトで反対署名を募る者さえいました。
幸か不幸か、カリフォルニアだけで十分な保護犬が発生しますので、外国から犬を連れてくる必要はないんですけれどね。

(メキシコは隣だし、実際メキシコの保護犬がカリフォルニアに来ることはあるけれど、エジプトとか韓国とかどこから出てきたんでしょうね。それにしてもすごい主張だ 笑)

幸いにも反対派の活動は実ることなく、この新しい法律が制定されました。
法案が可決された影には議員だけでなく、ベストフレンズアニマルソサエティやラストチャンスフォーアニマルズなどの大規模保護団体の協力もありました。
(Last Chance for Animalsというのは以前にシーザーさんの番組でパピーミルに潜入取材をした時に協力していた団体です。こちらね。)

一般の人の中にも「保護犬なんか欲しくない」「家庭でやってるようなブリーダーは敷居が高い」として、ペットショップで動物が買えないことを不満に思う人はいるんですけれどね。売ってなければ仕方がないわけで、やっぱりこういう法律を作ってガッチリと根元を締めることは不可欠だと思います。

来年は5年に一度の動物愛護法改正の年。国民が意見を届ける場も設けられるはずです。そんな時、外国の例でも具体的な例を挙げることは説得力を生みます。
ささやかながら参考になれば幸いです。



2017/11/02

商業的に繁殖された犬・猫・うさぎの店頭販売を禁止、カリフォルニア州

(photo by JACLOU-DL )

9月、カリフォルニア州のペットショップでは商業的に繁殖された犬・猫・うさぎを店頭で販売することを禁止するという州法が可決されました。
前記事のdog actuallyのロサンゼルス市の事例と同じく、店頭で取引が許されるのは一定の基準を満たした保護施設やレスキュー団体経由の動物のみとなります。
これに違反した場合は500ドルの罰金が課せられます。
(罰金は動物1匹につき500ドル。10匹違法に販売すれば5000ドルの罰金。)

10月にはブラウン州知事が署名をして、無事に新しい法律が成立。
実際に法律が施行されるのは2019年1月1日からです。
現在アメリカでは230以上の市や郡などの自治体で同様の条例が施行されていますが、州としての州法の成立はアメリカ全体でも初めてです。

この法律の一番の目的はパピーミルやキティファクトリーと呼ばれる非人道的な繁殖施設で生まれた動物の流通経路を断つことにあります。

そしてもうひとつは、公営私営を問わず保護施設で新しい家族を待っている動物の引き取り先の間口を広げることを目指しています。

(photo by ksphotofive )


報道などでは「ペットショップではシェルターから来た犬・猫・うさぎだけしか販売することができない。」という表現も見られますが、実際にはペットショップの店頭を譲渡会の会場として提供するという形がメインです。大規模なペットショップでは常設のアダプションセンターがあり、主に猫が展示飼育されている場合もあります。

いずれにせよ『販売』という言葉から連想される、シェルターから子犬や子猫を仕入れてきて店頭でそれを販売するというような形ではありません。
カリフォルニアの大きな都市では、もう既に同様の条例が施行されているところが多いので、今さら特に変わることもないという感じですね。

ペットショップの店頭で譲渡が成立した場合の料金も、シェルターで動物を譲渡してもらった時と同じ条件とすることと法で定められています。
ペットショップに連れてこられた動物がもともと居たシェルターや団体の譲渡条件が適用されます。
(シェルターによって料金はかなり違うが、だいたい30〜300ドル。一番多い価格帯は200ドルくらい。)
料金には避妊去勢手術、ワクチン、マイクロチップの料金が含まれています。

今回成立した法律では店頭販売の禁止の他に、うさぎ、モルモット、ハムスター、ブタ、鳥、爬虫類などペットとして所有することが認められている動物が保護施設に連れてこられた場合の扱いも明確にしています。
どうやら従来は、これらの動物は犬や猫に比べて保護期間や譲渡条件などの基準が曖昧だったようで、今回の法律で犬や猫に定められているのと同じ基準を適用するとされました。
(従来の基準がちょっと見つけられなかったんですが、わかり次第追記します。)


このように、カリフォルニアの新しい法律については「州としては初めて」という大きな意味はありますが、内容自体は既に各地で施行されている条例とほぼ同じものです。
他の州でも同様の州法が成立していって欲しいものです。

今回の法律の可決に至るまでは、様々な団体からの反対運動もあったのですが、それは次回に紹介します。

どんな団体が反対したか、わかります?


《参考URL》
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=201720180AB485



2017/10/31

ペットショップ新条例、ロサンゼルス市の場合

先日、カリフォルニア州がペットショップで商業繁殖された子犬や子猫の販売を禁止する法律ができたことは、すでにあちこちで報道されています。詳細をこのブログにも書こうと思っていますが、その前に2012年に同様の条例がロサンゼルス市で可決された時の記事をアップしておこうと思います。

犬のこととは別だけど、記事の冒頭が大統領選が終わったという件で始まってることに隔世の感。たった5年前なのにねえ。オバマ大統領が2期目を決めたばかりだった頃ね。あぁ、あの日に帰りたい...。




(illustration via comicvector )

(以下dog actually 2012年11月12日掲載記事より)

熱狂のアメリカ大統領選は幕を下ろしましたが、そのちょうど1週間くらい前にカリフォルニア州ロサンゼルス市で、ある条例が可決されました。
条例の内容は、ロサンゼルス市内にあるペットショップ、その他小売店や商業施設において、営利的に繁殖された犬、猫、うさぎを販売することを禁止するというものです。

新しい条例の条文では「営利的に繁殖された犬・猫・うさぎの販売は、行くあてがなくアニマルシェルターで命を終える動物が増加する一因となっている。
これら営利的に繁殖された犬・猫・うさぎの店頭での販売を禁止することは、アニマルシェルターにおける動物の殺処分率を低下させ、譲渡率を上昇させるために有効である。」と述べています。
ここで言う「営利的に繁殖された犬・猫・うさぎ」と言うのはパピーミルやキティファクトリーと呼ばれる大規模で非人道的な商業的繁殖施設や、
無許可で繁殖〜販売を行うバックヤードブリーダーのことを指します。
条例の施行は来年の6月からで、それ以降は実質的にロサンゼルス市内で犬・猫・うさぎの生体展示販売を行うことは違法となります。条文では「ただし、公営のアニマルシェルターまたは市の認可を受けたNPO団体やレスキューグループから来た動物は除く」とされています。これはもちろん、アニマルシェルターから動物を仕入れて店頭で販売するという意味ではなく、現在もう既に大手のペット用品店チェーンが行っているようなシェルターの動物の譲渡会のことを指しています。ペットショップが店頭で保護動物の譲渡会などを行う場合は、正式に認可されている団体から来ている動物であることを示す証明書を呈示することが義務づけられます。
同様の条例は北米の他の都市でも数多く施行されていますが、ロサンゼルスはその中でも最大の規模の自治体であるため、他の州の自治体への影響も大きく、現在シカゴでもロサンゼルスと同様の条例が検討されているところです。
しかし、この条例案が可決されるまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。当然ながら小売店側からの反発もあり、またペットショップでの動物の買い手である一般市民からも「動物をどこから手に入れるかは市民の自由であるはずだ」という声もあがっていました。
条例案は長年にわたって動物福祉に力を尽くして来たポール・コレッツ市会議員を中心に作られて来ました。また今回の条例可決に大きな役割を果たしたのは、全米で最大の規模の私営動物保護団体ベストフレンズアニマルソサエティでもありました。
(ベストフレンズアニマルソサエティとロサンゼルス市のコラボレーションについては、この記事で詳しく書いています)
同団体のパピーミル対策部門責任者であるエリザベス・オレック氏は、コレッツ市会議員とともに市長や市検事に2年半に渡って働きかけてきました。そこには、パピーミルへの潜入調査の報告なども含まれています。このペットショップ新条例は、議員と民間団体、それを応援する市民の声、そして行政の共同作業の賜物なのです。
店頭での動物の販売を禁止するこの条例では、許可を得て個人で活動しているブリーダーは対象になっていません。ロサンゼルス市では犬や猫を繁殖して販売をする場合、動物1頭につき年間120ドルの料金を支払って許可証を発行してもらわなくてはなりません。許可証は1家庭に対して2通まで発行され、1頭の動物は1年に1回の繁殖しか許されていません。
許可証申請以前の90日以内の間に動物が獣医での健康診断を受けていること、過去に動物虐待やネグレクトの前歴がないことなどの条件が課せられ、さらに、出産後は産まれた犬や猫が生後8週齢に達するまで母親から離すことの禁止、ワクチン接種をしていない幼齢動物の販売や譲渡の禁止といった規制もあります。
これらの要件を満たさずに動物の繁殖を行い、売買することは、違法なバックヤードブリーダーとみなされ取り締まりの対象となります。
2013年6月以降、ロサンゼルスにおいて犬が欲しいと思った人はシェルターや保護団体からアダプトするか、責任ある個人ブリーダーから直接子犬を購入するか、どちらかの選択になるということです。
2011年度のロサンゼルス市のアニマルシェルターに連れて来られた犬の数は約35,000頭、猫は約22,000頭。そのうち、犬の25%、猫の57%が殺処分となっています。治療のできない病気や怪我、改善不可能とされた問題行動などの理由よりもずっと多い主な殺処分の理由は、「貰い手がみつからない」というものでした。
健康で、人間の素晴らしい伴侶になる可能性のあった動物達が無駄に命を落とすことがなくなるよう、条例が正しく運用され、幸せな動物と人間が増えることを願って止みません。

ベストフレンズアニマルソサエティと、その新しい試み1

dog actuallyにてベストフレンズアニマルソサエティのことを初めて紹介した時の記事です。
アメリカの動物保護のことを書こうと思うと、マディ基金とベストフレンズのこと抜きには始まらないのでね。

どちらも規模の大きな組織なので批判意見もあるけれど、救われている人や動物がたくさんいるのも本当だし、ASPCAやHSUSとは違う方向のアメリカの大規模組織のこと紹介しておきたいというのは今も思っています。
真似してほしいとか、こうあるべきとか言うのではなく、他の事例を知っておくことって大切ですもんね。

長かったので2つに分けています。


ベストフレンズアニマルソサエティが発行している案内と教育用のリーフレット


(以下dog actually 2012年2月27日掲載記事より)

ベストフレンズアニマルソサエティはアメリカはユタ州ケナブという街に本拠地を置く動物保護団体です。BEST FRIENDS ANIMAL SOCIETY
ケナブの国立公園の中にベストフレンズアニマルサンクチュアリという世界最大級の保護施設を擁し、犬、猫、うさぎ、馬、山羊、豚、鳥類、その他野生動物も含めて常時約2000匹の動物が施設で暮らしています。施設の敷地面積は3万3000エーカー(約4千万坪)東京ディズニーランド260個分以上と言うと、そのけた外れの広さが想像いただけるでしょうか。
ベストフレンズはNo Killをポリシーとする保護団体で、地元ユタ州を始め多くの地域をNo Killコミュニティとすることに力を注いでいます。No Killというのは書いて字のごとく殺処分を行わないという意味です。病気や怪我で治療の施し様のない動物を苦しみから解き放つための安楽死以外は、どのような理由があっても動物を殺さないというわけです。
攻撃性が強過ぎるなど、里親募集が不可能と思われる犬は多くの動物シェルターでは殺処分となるのが普通ですが、ベストフレンズではそういう動物も受け入れ、最大限のリハビリを施します。(それだけのノウハウも人材も設備も揃っています。)最終的に新しい家族を見つけることができなくても、動物は快適な環境で十分なケアを受けながら一生を施設の中で過ごします。
精神的なリハビリが困難な動物、高度治療が必要で普通のシェルターでは対応できない動物などが全国からベストフレンズに連れて来られ、心と体のリハビリを受けています。
ベストフレンズには立派な設備のクリニックが設けられ専属の獣医師が複数常勤しています。治療が可能で回復の見込みがあるならば、どれだけの費用がかかろうとも必ず治療するというのもポリシーのひとつです。施設内のクリニックで対応し切れない場合は専門医への協力も依頼します。
施設の運営は全て民間からの寄付でまかなわれていますが、寄付の集め方は単純に現金や小切手を集めるだけでなく、さまざまな工夫がなされています。団体の活動内容をドキュメンタリーにした書籍や雑誌の出版、魅力的なキャラクターグッズの販売、施設の見学ツアーの実施などが積極的に行われており、人の目が集まって、それにつれて資金も集まって来るという仕組みです。
サンクチュアリの中で犬達が暮らしている場所は「ドッグタウン」と呼ばれ、犬達がリハビリを受けながら新しい家族に引き取られるのを待っています。
ナショナルジオグラフィックチャンネルでは2008年から2010年まで「ドッグタウン」というタイトルで、ここに暮らす犬達や世話をする人々のドキュメンタリー番組を放送していました。日本でも放送されていたのでご存知の方もいるかと思います。番組は現在でも繰り返し再放送される人気番組で、ベストフレンズの知名度を上げ寄付金を集めるのに大いに貢献しました。
ドッグタウンに暮らす犬達は2~3頭で1つの犬舎をシェアしています。犬舎には小さなドッグランと屋内の寝室がついており、いつでも中と外を行き来できるようになっています。広大な敷地には山も川も谷も平原もすべて揃っているので、散歩や運動には事欠かない犬にとってはパラダイスのような場所です。
このユタ州のサンクチュアリだけでなく、ベストフレンズは全米各地で地元の保護団体とのコラボレーション企画も多く行っています。犬や猫の譲渡会、ドッグウォークなどのイベントは知名度の高いベストフレンズの名前があれば集客率が大きく変わります。小さく経験の浅い保護団体には運営のノウハウの指導も行い、アメリカ全土をNo Killの場所にして、ホームレス動物がいない世界を作るというのが彼らの目標です。
こちらはベストフレンズ制作のドッグタウンの紹介ビデオです。



ベストフレンズアニマルソサエティと、その新しい試み2




(以下dog actually 2012年2月27日掲載記事より)

ずいぶんと長い前置きになってしまいましたが、このベストフレンズアニマルソサエティがロサンゼルスで新しい試みをスタートさせました。
私営の動物保護団体として初めて、公の自治体と共同で動物保護施設の運営を始めたのです。
2012年2月16日、ロサンゼルス市北部のミッションヒルズにベストフレンズペットアダプション/避妊去勢手術センターがオープンしました。
この施設は2008年にロサンゼルス市が市営の動物シェルターとして1900万ドルをかけて建設したのですが、自治体の財政難による予算カットのため、十分なスタッフを揃えることが出来ず、ほんの申し訳程度にしか利用されていませんでした。
それに対してベストフレンズが「全ての運営費用を負担するので、この施設を市とベストフレンズの共同シェルター兼避妊去勢手術クリニックとして運営させてもらえないか」と提案をしたのです。 
市としては財政負担なしで施設の活用が出来、他の市営シェルターの犬や猫の移送もできるということで、議会の大多数の賛成を得てこの提案を承認したのが2011年8月のことでした。
その後、様々な手続きやインテリアの変更などを経て、つい先日センターはグランドオープンを迎える事が出来ました。オープンの日には市長やベストフレンズサポーターのハリウッドセレブも駆けつけての華やかなレセプションが開かれたようです。このオープンの日だけで合計30頭の犬や猫に新しい家族が見つかったそうです。
我が家からそう遠くない場所ですので、オープンの日ではありませんが私も見学に行って参りました。

センターの入り口部分。カリフォルニアらしいスペイン風を模したお洒落な外観。入ってすぐの受け付けや案内のコーナーも明るく洒落た雰囲気。インテリアは有名デザイナーの手によるものだが、これもデザイナーからの「労力の寄付」という形で無償で行われている。



現在この施設には犬が109頭、猫が35頭、新しい家族に引き取られるのを待っています。犬も猫も清潔で毛並みも良く、落ち着いた様子をしているのが印象的でした。ストレスフルに吠え立てる犬はおらず、犬舎に近寄ると好奇心から少し吠える犬がいる程度でした。
スタッフやボランティアの数も多く、特にスタッフは皆とてもフレンドリーで感じが良く、知識も豊富です。こちらが犬を見ていると、すぐに声をかけて犬の性格や特徴を詳しく教えてくれました。つまり犬達はきちんと個性を把握され、目も手も行き届いているわけですね。
また安価で避妊去勢手術を提供するクリニックがあるため、医療関係者の数が多いのが目につきました。


ゆったりくつろぐロットワイラー。左手前は水飲み器、後ろが寝室。もともと市の施設として作られたので、残念ながら犬舎は「ドッグタウン仕様」ではない。大型犬は一頭ずつ、小型犬は2頭で犬舎をシェアしている。


犬舎から運動場などに自由に行き来することはできませんが、スタッフやボランティアが入れ替わり立ち替わり犬達を散歩に連れ出していました。
施設内には散歩用のトレイルが設けられていて、里親希望者と犬のお試し散歩用にも使われます。
また近くには大きな公園もあり、犬の施設としては悪くない周辺環境でした。
犬や猫を引き取る際には、避妊去勢手術やマイクロチップの諸経費として100ドルがかかります。
里親希望の人とじっくり話をするためのコンサルタントルームも設けられ、シェルターから動物を引き取るのが初めての人でも色々な相談に親切に応えてもらえます。
何よりもその場のオープンで明るい雰囲気と親しみ易いスタッフの応対が来訪者に安心感を与える感じでした。

アメリカでも1、2を争う有名保護団体であるベストフレンズと、メジャーな大都市であるロサンゼルス市のコラボレーションは今後アメリカの他の自治体にも影響を与えていくであろうと大きな注目を集めています。
立派な設備は持っていてもそれを活かす運営のできない自治体と、運営のノウハウは持っていても新しい設備を建てる資金力を持たない保護団体。お互いが垣根を取り払って協力できれば、税金の無駄遣いも抑えられ、多くの命が救われることにもなります。
日本や他の国でも参考になる部分があればいいなと思います。

2017/08/28

シーザーさんとAmazonのコラボ企画Audible for Dogs

SNSでシーザー・ミラン氏をフォローしてる方は、ここ数日Audible for Dogsというトピックがいくつかポストされているのに気づかれたかと思います。

(illustration by mohamed1982eg )

犬のためのオーディオブックセレクション

AudibleというのはAmazonグループが提供するオーディオブック版のストリーミングサービス。NetflixやHuluのように毎月定額を支払うと、オーディオブックが聴き放題というもの。

そのAudibleで今月始まったのが、シーザーさんとAudibleのチームが共同でセレクトした犬に聴かせるためのオーディオブックのセレクション。

別に犬語でワフワフ言ってる声が録音されているのではなく、普通に人間が聴くオーディオブックの中から、声やトーンなどを基準に選ばれたものです。

Audibleのサイトでの紹介ページはこちら


シーザーさんが語る『犬のためのオーディオブックガイド』が無料ダウンロードできます。
(私もしたけどまだ聴いてない)

それからもうひとつ、これもシーザーさんが読み上げる『シェルタードッグを家に迎えるためのガイド』も無料ダウンロードができます。
こちらはひとつダウンロードするたびにAudibleの会社がノースショアアニマルリーグという保護団体に10セント寄付してくれます。
(ノースショアアニマルリーグってこの記事で紹介したルーイット氏の保護団体ね)

日本からでもダウンロードできるのかどうかわからなくて恐縮なのですが、試してみてどうだったか教えてくださると嬉しいです。

なぜ犬にオーディオブック?

さて、そもそもなんで犬にオーディオブックを聴かせるのか?
これはちょっと遡って2015年に発表されたイギリスのハートプリー大学の研究チームのリサーチ結果がベースになっています。
(確かdog actuallyでも尾形聡子さんが紹介されていたと思います。)

イギリスの保護施設で新しい家族を待っている犬たち31匹を対象に、クラシック音楽(ベートーベン)ポップスのオムニバスアルバム、周波数を調整した犬用音楽アルバム、『ナルニア国物語』のオーディオブック、無音、を流し、どの状態が一番リラックスした状態が観察され、吠えや唸りなど望ましくない行動が減ったかを調査したというものです。

結果、オーディオブックを聴かせた時が、犬が横になったり眠ったりと言ったリラックス状態が一番多く見られ、吠えなどの行動も最も少なかったそうです。

犬に音楽を聴かせると落ち着くというのも以前から言われていますが、音楽よりもリズムが一定で、普段聞いている人間の話し声に近く、しかも落ち着いたトーンのオーディオブックの方が犬にとっては好ましいようですね。

(この記事のひとつ前に再掲載しているdog actuallyの過去記事はシェルターの犬の犬舎の前で子供が本を読み聞かせるというものですが、こちらもやはり犬にリラクゼーション効果があるようです。)

上記のリサーチに加えて、シーザーさんのドッグサイコロジーセンターでは、100組のボランティアを募集して犬にオーディオブックを聴かせる体験を4週間続けてもらい、アンケート調査を行いました。
オーディオブックの読み手の性別や英語のアクセント、ジャンルなど違うタイプをいくつか渡し、飼い主が1時間以上留守にする時にオーディオブックを流して、その時の犬の様子をモニターカメラで録画するというものです。
その結果、76%の飼い主さんが「犬がリラックスして落ち着いていた」と答えたそうです。


次のお留守番の時に試してみる?

残念ながら日本のAmazonのオーディブルではシーザーさんのセレクションはやってないのですが、オーディブルのサービス自体は日本語で行われています。
タブレットやスマートTVを使って音声を流せるので便利です。

Amazon以外にも、無料のオーディオブックのサービスもありますし、YouTubeなどでもたくさん見つけることができますので、お留守番の時に試してみてはいかがでしょう。
犬にとっては負担になることは何もないですからね〜。

選ぶ時のコツは、犬をメインで世話している人と同じ性別の読み手を選び、できれば声のタイプなども似ているとベターだそうです。

2017/08/27

犬と子供のためのシェルタープログラム

犬に本を読み聞かせるという、ひと昔前なら一生に付されそうだったアイデアが、実はたくさんのメリットがあったというリサーチが発表されたのは2015年のことでした。それ以前には子供が犬に向かって本を読むことで苦手を克服するという、読み手の側のメリットに焦点があったため、付き合う犬の方に訓練が必要とされていたのでした(マイケル・ヴィックのところから保護されたジョニー・ジャスティスとかね。)

犬の側のメリットについては、この次の書き下ろし記事で詳しく書く予定。

それにしてもこの記事に登場するミズーリ州のヒューメインソサエティのプログラム、改めて読んでも本当に素晴らしい。犬にとってのメリット、子供たちへの教育、資金集めの方法、あらゆる面で行き届いていると思います。保護施設の運営者がこういうプログラムを実行できるような講習などが日本でも増えていくといいなあと思います。


(以下dog actually 2016年3月22日掲載記事より)
(photo by Kaz )


子供が訓練されたセラピー犬に向かって本の音読をすることで、子供たちの国語の能力の向上を図るというプログラムは過去にdog actuallyでも取り上げてきたことがあります。今日ご紹介したいのは同じように犬に向かって本を読むプログラムなのですが、子供たちによってセラピーが必要な犬たちが救われ、子供たちにも様々な利点のある画期的なものです。Shelter Buddies Reading Program(シェルターの仲間に本を読もうプログラム)と名付けられたプログラム、どんなものなのでしょうか。

このプログラムを始めたのはHumane Society of Missouri(以下HSM)アメリカはミズーリ州屈指の大規模なシェルターを持つNPO団体です。内容はと言いますと、シェルターの犬舎の前で、犬たちに向かって子供が本を音読するというもの。犬たちはもちろん特別な訓練などは受けていません。と言うよりも、むしろ人に慣れていない臆病な犬が主な対象になっています。
プログラムに参加できる子供たちの年齢は6歳から15歳。HSMのウェブサイトから参加申し込みを行い、5ドルの参加料を支払って登録します。登録を終えた子供たちは、10時間の研修に参加しなくてはなりません。ここで犬たちが怯えたりストレスを感じている時、喜んで愛情表現をしている時のシグナルの読み取り方、犬との接し方などを学びます。
研修を終えた子供たちは、保護者同伴でいつでも本を読みに訪れることができます。犬が興味を示して喜ぶシグナルを示した時にはシェルター職員の管理の下で子供が犬にトリーツを与えます。
従来の犬への音読プログラム同様に子供が本を読むことに自信をつけることができるのはもちろん、臆病な犬が人間に慣れるきっかけができる、子供の音読を聞くことで犬の気持ちが落ち着く、などの成果が見られるようになってきました。臆病過ぎる犬だけでなく、ハイパーで興奮気味の犬に対しても子供の音読は良い効果をもたらしていると言います。ビクビクと犬舎の隅っこにうずくまっていたり、興奮しすぎて飛んだり跳ねたりしている犬は里親希望者からは対象外とされがちですので、人に慣れ落ち着きを身につけた犬が増えることは譲渡率のアップにもつながります。
子供たちの方も、研修の場で知識を学ぶだけでなく、犬たちと関わることで動物保護への興味、他者への共感などを身につけることができます。犬にとっても子供にとってもwin-winのこのプログラム、2015年のクリスマスシーズンに開始され、たいへんな人気を博しています。現在は月に一度、新たな参加者の募集を行っているのですが、すぐに満席になる状態。HSMでは、同団体の管理する別のシェルターや猫を対象にしたプログラムも拡張する予定です。
こちらは犬たちに本を読み聞かせる子供たち。思わずニヤリと口元が緩むビデオです。


HSMでは他にも子供向けのプログラムがたくさん用意されています。いくつか例を挙げますと......。
●「シェルターペット、スタイル・メイクオーバー」対象年齢6~12歳
ボサボサ、ムクムク伸び放題の状態で保護された犬がシェルターの専属トリマーの手で綺麗に可愛らしく生まれ変わる様子を見学します。ペットのメイクオーバーのためのリボンやアクセサリー作りの時間もある半日コースのプログラムです。
●「獣医入門、君も科学者だ」対象年齢8~12歳
白衣とゴーグル、手袋を身につけて、獣医さんの仕事を見学します。フィラリア血液検査の顕微鏡を覗いたり、様々な寄生虫などのサンプルを目にする機会もあります。動物の様々な症状から診断を推理する時間、獣医の仕事についての質疑応答など、獣医になる夢を持つ子供にうってつけの半日コースのプログラムです。
●「夏休み週間シェルターキャンプ」対象年齢6~11歳
キャンプと言っても泊まりがけではなくて、9時から3時まで5日間のプログラムに参加します。プログラムは日替わりで「シェルター内の見学」「動物に関する色々な職業について学ぼう」「シェルターの動物たちのためのおもちゃ作り」など勉強と遊びをバランス良く取り入れたコースです。(3ヶ月の長期に渡る夏休みはアメリカの親たちの悩みの種です。小学生だけでの留守番は法律で禁止されているので、働く親にとって子供たちが昼間安全に過ごすことができる場というのはとても貴重なのです。)
これらのプログラムはいずれも有料で半日で35ドル、キャンプは270ドルになります。必要経費を差し引いた分はシェルターの活動資金にもなり、同時に次世代への動物保護の教育の場にもなっています。
こうしてシェルターの動物たちに親しんだ子供たちは、大人になった時にも動物虐待や飼育放棄からは縁遠くなることでしょうし、アニマルシェルターをより身近な存在として考えるようになります。シェルター発の楽しい学びの場がますます広がっていって欲しいものです。
【参考サイト】
Humane Society of Missouri


2017/08/20

犬の胃拡張・胃捻転リスク問題の補足

このブログを書き始めて、今のところの一番の功績は(自分で功績とか言っちゃうのもどうなのよって感じですね。すみません。)6月に書き下ろしでアップした「犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因」の記事ではないかと思います。

何しろPVがじわじわと増え続けて22000を越えるという、dog actually現役時代並みの数字を出しております。

さて、様々なリスク要因を挙げた中で、一番反響が大きかったのが「フードの器を台の上に乗せて食べさせるのはGDVのリスクを高くする」というものです。

「器を高い位置にすることでリスクを低減する」と言われて実行していた方も多いだけに、「えーっ!」と思った方も多いのは尤もだろうなと思います。
そこで、今回はその補足。

アメリカでも「早食いを防止する」「食後の運動を控える」「一度にたくさん食べさせない」などはすんなりと受け入れられているのに比べて、この『器を高くする問題』は熱い議論になりがちなんですよ。

多分、反対のことを教えられ実行していたというのと、フードの器を床に置くと人間の視点では食べにくそうに見えるという2つの点が大きいのではないかと思います。
でも「dog GDV raised bowl」(犬 胃捻転 器 高くする)で検索すると、器の位置を高くすると危険としている情報のほとんどは獣医師や獣医学の研究者が書いたり監修したもので、「器の位置を高くした方が良い!」と主張しているのはほとんどが一般の飼い主によるもの、たまにブリーダーを名乗る人がいるという状態です。

犬の体の構造を落ち着いて考えてみると、床や地面の高さのものを食べる方が自然なことなのはストンと腑に落ちるんですよ。


言葉で書いて説明するとちょっとわかりにくいので、図にしてみました。

まずは器を台の上に置いて高くした場合↓

確かに口と器の位置関係で言えば食べやすそうに見えます、
けれど、この姿勢では犬の食道は曲がった状態で食べ物を胃に送り込むことになります。その際にどうしても空気が余分に入ってしまいますよね。


次に、器を床の上に置いた状態↓


頭を下げた姿勢で食べることで犬の食道は胃に向かってまっすぐの状態になります。

とても脚の長い犬種で床に直置きではどうしても食べにくそうな場合も、この食道がまっすぐになっている状態ということを意識すれば、ごく低い台を使っても良いと思います。
ただ、食べにくいということは早食いの防止=つまりGDVのリスクの低下要因にもなるわけですから、食べにくいことが必ずしも悪いわけではないのです。

野生の狼や狐などは皆、地面の高さで食べているわけですから、体の構造が低い位置から食べるのに適しているのもなるほどですね。

リスク低下要因を全て実行したからと言って、発症を100%予防できるわけではないのは、他の病気と同じですが、わざわざリスクを高くすることは避けたいものです。





God Made a Dog


dog actuallyの過去記事を再掲するというこのブログも、最近は更新が遅くて面目無いしだいです。

このGod Made a Dogの記事はちょっとした息抜き記事としてアップしたのですが、自分でもなかなか気に入っているもののひとつです。

このビデオを見るたびに「犬って本当に可愛いよなー」としみじみ胸を熱くしております。


(以下dog actually 2015年2月22日掲載記事より)

今年の2月、アメリカの国民的スポーツ行事・スーパーボウルの時に流れるテレビCMで、クライスラー社が「God Made A Farmer(神は農夫を創られた)」をテーマに自社トラックのコマーシャルを放送しました。このCMはたいへん好評で話題になったのですが、その10日ほど後にそのスタイルを真似た形で「God Made a Dog」というビデオが作られ、Youtubeにアップされました。
ビデオは6月の下旬にインターネット新聞のハフィントンポストで紹介されたのをきっかけに、ツイッターやフェイスブックなどSNSで爆発的に広がり大人気となりました。
犬を愛する人なら必ずやクスッと笑った後、ジーンと胸が熱くなるこのビデオ、まずはご覧くださいませ。




ナレーションの日本語訳は以下の通りです。
-------------------------------------------------------------------------------
そして9日目に、神は自らが創造された純真な目の子供らを見下ろし、こう言われた。
「あの者達には友が必要じゃ」
そこで神は犬を創られた。
神は言われた。
「朝には喜んで飛び起きてキッスの雨を降らし、
樹の根元にシッコを引っかけて、1日中眠りこけ、
また起きてまたキッスの嵐、
そしてテレビの光を浴びながら真夜中までも起きている。
そういう者が必要じゃ」
そこで神は犬を創られた。


神は言われた。
「自ら進んでオスワリをして次はマテ、
それからゴロンとでんぐり返り。
広い心で、必要の無い帽子をかぶせられても、
わけの分からない衣装を着せられても文句も言わぬ、
そういう者が必要じゃ。
気にすることも考えることもなく屁を放ち、
尻尾をクルクル追いかけて、
股ぐらをフンフン嗅ぐ。
棒をくわえて持って来て、
ペロッとなめて元気をくれる、
そういう者が必要じゃ。
そなたが何も成さなかったとしても、
何も得られなかったとしても、
勝利を収めなかったとしても、
成功しなかったとしても、
そんなことまるで気にせず評価することもなく、
ただいつもと同じように愛してくれる、
そういう者が必要じゃ。」

そこで神は犬を創られた。

神は言われた。
「橇を引いて走るほどに、
爆弾を探し出すほどに力強く、
それでいて赤子を愛し、
盲人を導くほどに心優しい、
そういう者が必要じゃ。
心が傷ついた時にはそっと頭をもたせかけ、
優しい瞳で慰めながらソファーの上で何もせずに1日中付き合ってくれる、
そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。
(photo by skeeze )


「たとえ孤独の中にあっても、
我慢強く忠実な、
そういう者でなくてはならぬ。
いつもそなたを気にかけ、寄り添い、
鼻を押し付け、元気づけ、心鎮め、
イビキをかき、ヨダレをたらし、
ゴミを漁り、リスを追いかける、
そういう者が必要じゃ。
明るい無私の心で家族をひとつにする、
そういう者が必要じゃ。
一番の親友が「ドライブに行こうか」と言うと
ワンワン吠えてハアハア息を切らし、
尻尾をブンブン振って返事をする、
そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。
(photo by TessDeGroot )

-------------------------------------------------------------------------------
いかがですか?
少し解説を付け加えますと、このナレーションの下敷きになっている「God Made A Farmer」というのは、1978年に大規模な農業のコンベンションにおいて、当時の人気ラジオパーソナリティーだったポール・ハーヴェイ氏が行ったスピーチです。聖書の第一章「創世記」の中で1日目~6日目に神が光や天地や人間を創造され、7日目に休息を取られたという説話を基に、「そして8日目に神は自らが創造された大地を見下ろし、これを世話する者が必要だと言われた。そこで神は農夫を創られた。」というフレーズで始まったスピーチで、農業に従事する人々を讃えるものでした。犬の讃歌であるこのビデオは、農夫に続いて神が創造されたのは犬であるということで、「そして9日目に」で始まっているというわけです。
さて、良かったらもう一度、ビデオを見返して愛犬のそばに腰を下ろしてみて下さい。目尻を下げて「もう、まったく犬ってやつは」って笑いたくなったり、愛犬を抱きしめたくなったり(こういう場合、たいてい犬は迷惑そうですが 笑)、優しい気持ちになっていらしたら幸いです。

2017/07/18

レスキュー活動におけるビジネス的運営の成功2

前記事からの続きです。ここからがもっとNHK朝ドラ的なところです。

日本でもアニマルレフュージ関西(ARK)など、ビジネス的な視点で活動をしている団体はありますが、残念ながらまだまだ少数です。(ARKさんはdog actuallyでも記事にしていますので、これも再掲します。)SNSなどで保護活動に縁の薄い一般の人の書き込みなどには「犬を引き取ろうと思ったらお金を要求された!保護犬で金儲けしてる!」というようなものもチラホラ見受けられます。
↓の記事の本文にも書いていますが、こういう高いレベルでの活動が広まることで、一般の人の意識も変わっていきます。

保護活動をビジネスに例えて説明すると「ひどい!信じられない!」という声があがるのもたくさん見てきました。これは受け手の意識が低いというよりも、発信側の工夫が必要な点だと思います。イメージが悪くならないよう、わかりやすく伝えるというのは、ビジネスの広報では当たり前のことだからです。

そして、その後も他の場所でも何度も引用しているのが「保護団体の運営は、優しい美しい心だけではできないのです。」というシンディ・シャパイロ氏の言葉です。より多くの動物を救いたいなら何より大切なのは破綻しないこと。実際に活動に参加している人でなくても多くの人がこれを知っているだけで、無責任な賛美や、自己満足の丸投げの抑止力になるのではないかと思います。


(以下dog actually 2013年4月22日掲載記事より)
(photo by Elizabeth Thomsen)
前回、1975年にウォールストリートジャーナルで紹介された動物保護団体North Shore Animal League(以下NSAL) とその運営責任者アレクサンダー・ルーイット氏を紹介しました。
ジャーナル紙のその記事を読んで感銘を受けたのが、当時25歳の女性シンディ・シャパイロ氏。アイビーリーグの名門・ハーバード大学の経営大学院を卒業したばかりの、前途洋々たる人物でした。記事を読んだシャパイロ氏は「これこそが私がやりたいこと!このためにこそ今まで勉強してきたんだ!」と閃いたと言います。
シャパイロ氏は電話帳からルーイット氏の自宅の番号を調べて電話をするという大胆な行動に出ました。そしてルーイット氏が成し遂げたようなアニマルシェルター運営を、自分も同じように地元マサチューセッツで始めたいと、思いの丈を伝えたのです。
ルーイット氏は最初はまるで父親のようにシャパイロ氏を叱りつけました。最高の教育を受けて未来が開け始めたばかりだと言うのにもっと現実的になりなさい、と。動物保護というのはいったん関わり始めると一生を捧げる覚悟が必要だし、胸が張り裂けるようなことの連続だ。それにもちろんお金が儲かるものでもないのだよ、とも。
ルーイット氏は散々威したにも関わらず全く引く気配を見せないシャパイロ氏にとうとう根負けし、「そこまで言うなら」と彼女をロングアイランドの自宅に招待しました。
シャパイロ氏は週末をルーイット氏の自宅で過ごし、シェルターの見学にも訪れ、何がどのように運営されているのか、見聞きしたこと全てを書き留めました。シャパイロ氏の熱意を目の当たりにしたルーイット氏は、「実を言うと、自分がこうして動物保護のために作り上げたノウハウを継承してくれる人物がいればとずっと考えていた。君は私の眼鏡にかなった初めての人だよ」と打ち明け、最終テストとして10問の課題を出しました。課題は財政計画、マーケティング(市場調査~流通経路~広告を含む、計画から最終販売までの全過程)など、シャパイロ氏が実際に組織を運営する能力があるかどうかを見極めるものでした。
ルーイット氏が求めるシェルター運営のビジネス理論は、当時の既存のシェルターのあり方とは大きく異なるものでした。しかし幸いなことにシャパイロ氏は従来のシェルター運営のことは全く何も知らず、持っているのは財政やマーケティング、マーチャンダイジングに関する豊富な知識と溢れる熱意でした。与えられた課題を見事にクリアしたシャパイロ氏のもとに、ルーイット氏から5,000ドル(現在の日本円にすると300万円くらい)の小切手が送られて来たのは、それから間もなくのことでした。
シャパイロ氏はその資金を元手に、まず動物病院の地下室を間借りしました。広さにして約36坪強、ちょっとした一軒家くらいの床面積の、猫12匹犬25匹を預かることができる施設で、里親を探すリホーム活動を開始しました。当初は動物を計画通りに送り出せず、場所がいっぱいになれば自宅で犬達を預かることもありました。ダイニングテーブルの下には親のない子犬達が、リビングルームでは別の犬が出産して育児をしているというような状況を、ご主人と一緒に乗り切ってきたそうです。
この動物病院の地下室での保護活動を始めたのが1976年。現在もシャパイロ氏が責任者を務める保護団体Northeast Animal Shelter(以下NEAS)の始まりでした。
NEASは東海岸のニューイングランド地方(コネチカット、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、メイン、ロードアイランドの6州)の中で最大の私営NO KILLアニマルシェルターとして、大きな成功を収めています。現在は、活動当初の10倍以上の広さの屋内施設と屋外の複数のドッグラン、自前の医療施設、30名の常勤スタッフ、15名のアダプションカウンセラー、400名以上のボランティアを擁する団体です。利用者の便を考えて、施設は年中無休で朝10時から夜の8時までオープンしており、地理的にもアクセスの良い場所にあります。
(photo by Elizabeth Thomsen)

この成功は1975年にルーイット氏がウォールストリートジャーナル紙に語った、「どんな犬でも...そう、たとえハンディキャップを背負った犬であっても適切な層に適切なアピールを効果的に行うことで、家族を見つけてやることは可能です。資金調達に関しても同じことです。闇雲に活動するのではなく、この原則に従って戦略を立てて活動を続けること。これが成功の鍵です。」という言葉を、シャパイロ氏が忠実に実行し続けた成果です。
上に揚げた2つの画像は、どちらもNEASがリホームした犬達の同窓会イベントの様子です。こうして犬の里親になった家族とつながりを持ち続けることで寄付金も集まり易くなりますし、また次に動物を迎える時にもこのシェルターからという動機付けにもなります。
動物達による地元の老人ホームの訪問サービスも、NEASの大事なプログラムのひとつです。老人ホームに連れて行くのは、知らない人に撫でられても大人しく振る舞うことが出来る、注意深く選抜された動物達です。訪問される側のシニアの皆さんの喜びはもちろんのこと、このようなプログラムに参加できるというのは、新しい家族を見つける上での大きなセールスポイントになります。
また、子供達を対象にしたバースデープランも実施されています。レクリエーションルームを子供のバースデーパーティーのために1時間最低150ドルで貸し出すというものです(貸出料は団体への寄付金とみなされるので、もっと大きな額を寄付するのも大歓迎です。普通にレストランなどを借りるのと違って、この出費は税金控除の対象にすることができます)。飲み物や食べ物の持ち込みは自由、子供達は施設の見学ツアーに参加することができます。つまり資金調達と地元へのアピール、そして次世代への教育活動が同時に出来るというわけですね。
これら様々な戦略を立て、実行し、分析し、継続して来た結果、NEASは活動開始以来10万匹以上の動物をレスキューし新しい家族へと送り出して来ました。現在ではシャパイロ氏のところに、かつて彼女自身がやったように「私もあなたのような活動がしたいんです。勉強させて下さい。」という問い合わせが入って来ます。
「そうやって問い合わせて来る人々に、私はかつて自分がルーイット氏から言われた同じことを繰り返しています。NEASと同じ規模で成功を収めようと思ったら、経営学の学位か、実際のビジネスの経験が必要不可欠です。一般社会に通用する常識も身につけていなくてはなりませんし、マーケティングを実行する知識も必要です。通常のビジネスを開業するのと同様に、少なくとも最初の5年間は利益が出なくても持ちこたえられるだけの経済的基盤を準備しておくことも必要です。昼夜、週末、祝日を問わず働かなくてはならないし、胸がつぶれるように辛いことがあっても前に進み続けなくてはならない。時には、助けが必要な動物がいても背を向けなくてはならないこともある。保護団体の運営は、優しい美しい心だけではできないのです。」
幸いなことに、ルーイット氏やシャパイロ氏のような視点や考え方での保護団体の運営は、少しずつ浸透して広がり始めています。そして大切なことは、こうして高いレベルでの活動が広まることで、一般市民の意識も変わっていくということです。
NEASでは、犬や猫をリホームする際、295~395ドルのアダプション料金を設定しています。ここには、避妊去勢手術、州外や国外からの動物の運搬費用、ワクチンやマイクロチップの費用が含まれ、また次の活動への資金にもなっています。我が家の犬達をシェルターから引き取った時にも250ドルと275ドルのアダプション料金を支払いましたので、これはごく一般的な料金設定だと思います。公営のシェルターなどであれば料金はもっと低くなりますが、シェルターから動物を引き取るからといって、それが無料であると思っている人はアメリカにはまずいないでしょう。
日本で動物達のために活動している団体を拝見していると、どこも皆、資金の捻出に苦労していらっしゃる様子が見て取れます。何もかもアメリカ流を取り入れる必要もないし、無理な面も多々ありますが、それでもマーケティングやマーチャンダイジングの考え方をベースに戦略を立てるという視点が日本のレスキュー活動にも浸透し、一般の人々の意識も変わっていくといいなと思っています。
日本で動物の保護活動に携わっている方からは「動物を"引き取ってあげる"のにお金を払うんですか!?と言われた」などの残念な声もよく耳にします。
アダプション料金を負担して動物を迎えることは、ペットショップの動物にローンを組むよりもずっと気持ちがいいものです。寄付金は何も数万円、数十万円単位でするものではなくて、最寄りの保護団体や保護をしている個人の方にペットシーツやフードを差し入れることでもいいのです。
アメリカの大きな保護団体が歩んできた軌跡を伝えることが、日本のレスキュー活動の少しでもお手伝いになれば幸いです。

<参考書籍>
『Little Boy Blue』 by Kim KAVIN

レスキュー活動におけるビジネス的運営の成功1

 この記事は、前回と前々回の記事で取り上げた「レスキュー活動におけるビジネス的視点」のシリーズになっています。

この記事のエピソードは旧SMILES@LAで紹介したことのあるキム・ケイヴィン氏著の『Little Boy Blue』に掲載されていたものに、当該保護団体のサイトに掲載されている情報などを加えてまとめたものです。一冊の本の中の一章だけのエピソードなのですが、これだけでNHKの朝ドラが一本できそうなくらいのドラマが詰まっています。なんでアメリカの話なのに朝ドラなのよって言われそうだけど、なんかすごく朝ドラのヒロインっぽい話なんですよ(笑)

旧SMILES@LAで紹介したのは、この本の前書き。マイケル・ヴィックのところから保護された犬たちのストーリーTHE LOST DOGSの著者ジム・ゴーラント氏が書いたものです。これもとても素敵なので、読んでいただけると嬉しいです。

(以下、dog actually 2013年4月8日掲載記事より)

犬のレスキュー活動において、マーケティングやマーチャンダイジングといったビジネス的な視点で戦略を立てて取り組んでいくことの大切さは、過去にも何度か書いたことがあります。
これは活動を破綻させることなく継続させ、より多くの犬の命を救い、犬にも人にも住み易い社会を作って行く上でとても大切なことなので、今回はPart2という形でまたご紹介したいと思います。(※再掲にあたって、タイトルを少し変更しました。元のタイトルは「レスキュー活動におけるビジネス的視点Part2」)

今から38年前の1975年、ウォールストリートジャーナルに、ある動物保護団体の記事が掲載されました。ウォールストリートジャーナルと言えば、経済や金融に関する記事を掲載している新聞です。動物保護の話題とはあまり縁がありそうにないジャーナル紙に取り上げられたのは、North Shore Animal League。記事の見出しは『正しい戦略を打ち出せば、3本足の猫にも市場有り。大企業を手本にした小さなアニマルシェルターの成功』というものでした。
North Shore Animal League(以下NSAL)は、世界でも屈指の大規模な動物保護の公益法人ですが、ジャーナル紙に記事が掲載された当時は、まだまだ小さな団体でした。1944年に設立されたNSALは、60年代の後半まで昔ながらの資金調達の方法、富裕層に寄付のお願いの手紙を送るという方法をとっていました。
さてジャーナル紙の記事の主人公であるアレクサンダー・ルーイット氏は、50年代に「アメリカのトップセールスマン12人」という書籍で、ホテルチェーンのヒルトン氏、コカコーラのファーリー氏などと並び称されたこともある人物です。訪問販売のルーイット掃除機は、戦後のアメリカの大ヒット商品でした。
1969年のある日、ルーイット氏は寄付金お願いの手紙を受け取った奥さんから「NSALに100ドル寄付したいのだけれど」と相談を受けました。現代の日本の感覚なら5~6万円というところでしょうか。
ルーイット氏は自分の寄付金がどんな風に使われるのか好奇心がわき上がり、NSALのシェルターを訪ねてみました。そこで会社を経営というもののプロであった彼の目に映ったのは、あまりにもお粗末な組織運営でした。シェルターが開いているのは平日のみ、しかも1日2時間だけ。フルタイムで働いている人間はたった1人。資金繰りに困窮して、電灯を点けておくことさえままならず。とにかく犬を保護するたびに赤字が増えていくという状態を何とかしなくてはと、ルーイット氏は決意したのでした。
彼はNSALの責任者にダイレクトメールキャンペーンを提案指導しました。地元の出版物印刷所に協力を依頼し、子犬と子猫の可愛らしい写真をあしらったDM28,000通を作成しました。DMの内容は「1ドルの寄付をお願いします。この子達の命を救う為に!たったの1ドルです!」そして、当時人気シンガーだったペリー・コモ氏もこの運動に参加しているという写真とサインを掲載する契約も取り付けました。
キャンペーンは大成功でした。集まった寄付金は11,000ドル。現在の価値に換算すると約67,000ドル相当になります。当時66歳でビジネスの世界からは退いていたルーイット氏は、NSALの責任者として組織の立て直しに取り組み始めました。ルーイット氏就任後の5年の間に職員は25人に増え、シェルターは年中無休に、宣伝広告費として毎年50,000ドルを計上するまでになりました。


(photo by spotreporting)
ルーイット氏は会社を経営するのと同じ手法でシェルターの運営にあたりました。
「シェルターに連れて来られる動物達は"仕入れ"です。新しい里親に送り出すことができれば"売り上げ"。仕入れたものが動かず"在庫"が多くなれば、商品のプロモーションを行って販売促進をする。多くのアニマルシェルターは高い志を持ってはいるものの、資金調達の方法もビジネス的組織運営も知らない人々によって運営されている。彼らが破綻せずに済んでいる唯一の理由は、毎年どこかのお金持ちの老婦人が遺産を残してくれるからです。」
ずいぶんと冷徹で辛口に聞こえるかもしれません。しかし資金繰りがままならず経営破綻してしまっては、しわ寄せが来るのは保護されている動物達です。
ルーイット氏が就任した年、NSALが家庭へと送り出した動物達は年間約2,000頭でした。現在のNSALは年間約60,000頭の動物が入っては出て行くNO KILLシェルターです。ルーイット氏は1988年に79歳でこの世を去るまで、NSALの運営に携わっていました。
ルーイット氏が亡き後も、NSALはビジネス的手法での組織運営を引き継ぎ、今では年間3,000万ドル以上の収支を計上する組織になっています。行き場のない動物達のレスキュー、リハビリ、リホーム、全国のシェルターや保護団体への支援、一般の人々への教育啓蒙活動といったNSALが果たしている役割は、40年以上前にルーイット氏がビジネス的手法で組織の運営立て直しを図らなければ、実現することがなかったものです。つまり大事なポイントは、大きな組織だからビジネス的運営が必要なのではなくて、ビジネス的運営を取り入れた結果、ここまでの大きな組織になったということです。
さて、1975年にルーイット氏のことが紹介されたウォールストリートジャーナルの記事を読んで、大きな感銘を受けた人物がいました。その人の名はシンディ・シャパイロ。ハーバードビジネススクールを卒業したばかりの、25歳のうら若き女性でした。
シャパイロ氏が取った行動は?それは次回にまた、じっくりとご紹介したいと思います。

<参考書籍>
『Little Boy Blue』 by Kim KAVIN

2017/07/11

レスキュー活動におけるビジネス的視点


タイトルに『ビジネス的視点』という言葉を初めて使った記事です。
「保護活動をビジネスだと考えてるなんて酷い!理解できない!」この言葉、このところSNSなどで本当によく目にします。
でもビジネス的に考えて、効率良く資金を調達し、効率良く保護犬を家庭に送り出すということの恩恵を一番受けるのは当の犬たちです。(猫でもうさぎでも同じ)私はこのポイントをずーっと説き続けていきたいと思っています。

また、この記事で紹介したシェルター医療プログラム(これは私が訳した言葉です)最近はいくつかの犬メディアで本家カリフォルニア大学デイビス校の日本人教授の方が『シェルターメディスン』という言葉で詳しく紹介する記事を書いていらっしゃいます。

(以下、dog actually 2011年11月7日掲載記事より)

前回は「犬種別レスキューという考え方」をご紹介しました。
これは"必要とされる所に適切な情報と供給を"という、ビジネスのマーケティング的な視点で立てられた戦術であるとお話しましたが、今回は動物のレスキュー活動におけるビジネス的視点についてもう少し詳しくご紹介しようと思います。
カリフォルニア大学デイビス校にはコレット・シェルター医療プログラムという独立財政のプログラムがあります。シェルターに収容されている動物達に適切な医療を提供するための活動や教育を行っており、寄付金によって運営されています。せっかく保護された動物が、ワクチン接種をしていなかったために伝染病に罹ったり、シェルターの医療体制が整っていないために助けられた命を落としてしまうことを撲滅していくことがこのプログラムの目的です。
この医療プログラムのディレクターでもあるケイト・ハーレイ獣医師は犬や猫の殺処分をなくすためにはビジネス界の戦術を取入れることが大切であると説き続けています。
ハーレイ獣医師がシェルターの戦略に「マーチャンダイジング」という言葉を使い始めた時「動物を物品扱いしている」と批判を多く受けました。
マーチャンダイジングとは、消費者の要求に適う商品を、適切な数量、適切な価格、適切なタイミングで提供するための活動のことを指します。
商品を流通させる時に避けて通れない生産量と品質の管理。
この考え方もシェルターの動物達のために形を変えて取入れられています。
コレット・シェルター医療プログラムは、低所得者向けの安価な避妊去勢手術の提供や、野良猫のTNR活動(Trap - Neuter - Return 猫に避妊手術を施した後、元の場所に戻す。)を積極的に行い、シェルターに連れて来られる動物の数を減らすことに力を入れました。

(Photo by spotreporting

シェルターが過密状態であることは、衛生、医療の面で望ましい状態ではなく、それは里親希望の訪問者の減少という悪循環を招いてしまいます。
避妊手術の提供やTNR活動を通して注意深く動物の出生を管理することは、シェルターの動物達の環境改善(つまりは健康状態の改善)と、殺処分数を減少させる最も効果的で低コストな方法であると、ハーレイ獣医師は力説します。
これらはまず最初にサンフランシスコの動物虐待防止協会のシェルターを皮切りに始められ、殺処分数の減少に目覚ましい効果をあげました。
現在では他州でも多くの自治体で、生まれて来る動物の数を減らす戦略や、公営シェルターから私営シェルターや団体へ動物を移動させる「アダプション協定」が取入れられ、シェルターに収容された動物の90%以上の譲渡率を達成する自治体も多く現れています。



その他にも、多くの成功しているアニマルシェルターが取入れているビジネス的視点がいくつかあります。 

優れたカスタマーサービス

正確な知識、親切な応対、アニマルシェルターやNPO団体と言えども、これらはとても重要な事柄です。
感じの悪いシェルターには寄付金もボランティアも集まって来ないし、里親希望者も寄り付いてこないでしょうから。 

場所や営業時間の利便性

言うまでもないことですね。シェルターによっては午後3時くらいに閉まってしまうところもあります。
仕事をしている人でも気軽に立ち寄れる場所であることは大切なポイントです。 

積極的な宣伝活動

里親募集中の動物を効果的にアピールすること。優れたデザインのウェブサイトや、雑誌・テレビなどメディアへの露出。これらはとても重要です。 
ハーレイ獣医師は言います。
「生産量や品質の管理といった言葉を使うことは冷たく聞こえるかもしれません。
私達の社会はマーチャンダイジングという分野に多大な知恵とエネルギーを集結させて、優れたノウハウを確立してきました。動物達を救う為にそのノウハウを利用していくことは決して冷たいことではないはずです。
言葉の問題に捕われて、合理的に成果をあげるチャンスを失うことの方が、動物達にとっては悲しむべきことでしょう。」
とてもアメリカ的発想だなと思いますが、1頭でも多くの動物を救う為に知恵を絞り、心を砕く人々の努力は同じだと思います。
ビジネス的視点、悪くないと思いませんか?



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