2017/07/18

レスキュー活動におけるビジネス的運営の成功2

前記事からの続きです。ここからがもっとNHK朝ドラ的なところです。

日本でもアニマルレフュージ関西(ARK)など、ビジネス的な視点で活動をしている団体はありますが、残念ながらまだまだ少数です。(ARKさんはdog actuallyでも記事にしていますので、これも再掲します。)SNSなどで保護活動に縁の薄い一般の人の書き込みなどには「犬を引き取ろうと思ったらお金を要求された!保護犬で金儲けしてる!」というようなものもチラホラ見受けられます。
↓の記事の本文にも書いていますが、こういう高いレベルでの活動が広まることで、一般の人の意識も変わっていきます。

保護活動をビジネスに例えて説明すると「ひどい!信じられない!」という声があがるのもたくさん見てきました。これは受け手の意識が低いというよりも、発信側の工夫が必要な点だと思います。イメージが悪くならないよう、わかりやすく伝えるというのは、ビジネスの広報では当たり前のことだからです。

そして、その後も他の場所でも何度も引用しているのが「保護団体の運営は、優しい美しい心だけではできないのです。」というシンディ・シャパイロ氏の言葉です。より多くの動物を救いたいなら何より大切なのは破綻しないこと。実際に活動に参加している人でなくても多くの人がこれを知っているだけで、無責任な賛美や、自己満足の丸投げの抑止力になるのではないかと思います。


(以下dog actually 2013年4月22日掲載記事より)
(photo by Elizabeth Thomsen)
前回、1975年にウォールストリートジャーナルで紹介された動物保護団体North Shore Animal League(以下NSAL) とその運営責任者アレクサンダー・ルーイット氏を紹介しました。
ジャーナル紙のその記事を読んで感銘を受けたのが、当時25歳の女性シンディ・シャパイロ氏。アイビーリーグの名門・ハーバード大学の経営大学院を卒業したばかりの、前途洋々たる人物でした。記事を読んだシャパイロ氏は「これこそが私がやりたいこと!このためにこそ今まで勉強してきたんだ!」と閃いたと言います。
シャパイロ氏は電話帳からルーイット氏の自宅の番号を調べて電話をするという大胆な行動に出ました。そしてルーイット氏が成し遂げたようなアニマルシェルター運営を、自分も同じように地元マサチューセッツで始めたいと、思いの丈を伝えたのです。
ルーイット氏は最初はまるで父親のようにシャパイロ氏を叱りつけました。最高の教育を受けて未来が開け始めたばかりだと言うのにもっと現実的になりなさい、と。動物保護というのはいったん関わり始めると一生を捧げる覚悟が必要だし、胸が張り裂けるようなことの連続だ。それにもちろんお金が儲かるものでもないのだよ、とも。
ルーイット氏は散々威したにも関わらず全く引く気配を見せないシャパイロ氏にとうとう根負けし、「そこまで言うなら」と彼女をロングアイランドの自宅に招待しました。
シャパイロ氏は週末をルーイット氏の自宅で過ごし、シェルターの見学にも訪れ、何がどのように運営されているのか、見聞きしたこと全てを書き留めました。シャパイロ氏の熱意を目の当たりにしたルーイット氏は、「実を言うと、自分がこうして動物保護のために作り上げたノウハウを継承してくれる人物がいればとずっと考えていた。君は私の眼鏡にかなった初めての人だよ」と打ち明け、最終テストとして10問の課題を出しました。課題は財政計画、マーケティング(市場調査~流通経路~広告を含む、計画から最終販売までの全過程)など、シャパイロ氏が実際に組織を運営する能力があるかどうかを見極めるものでした。
ルーイット氏が求めるシェルター運営のビジネス理論は、当時の既存のシェルターのあり方とは大きく異なるものでした。しかし幸いなことにシャパイロ氏は従来のシェルター運営のことは全く何も知らず、持っているのは財政やマーケティング、マーチャンダイジングに関する豊富な知識と溢れる熱意でした。与えられた課題を見事にクリアしたシャパイロ氏のもとに、ルーイット氏から5,000ドル(現在の日本円にすると300万円くらい)の小切手が送られて来たのは、それから間もなくのことでした。
シャパイロ氏はその資金を元手に、まず動物病院の地下室を間借りしました。広さにして約36坪強、ちょっとした一軒家くらいの床面積の、猫12匹犬25匹を預かることができる施設で、里親を探すリホーム活動を開始しました。当初は動物を計画通りに送り出せず、場所がいっぱいになれば自宅で犬達を預かることもありました。ダイニングテーブルの下には親のない子犬達が、リビングルームでは別の犬が出産して育児をしているというような状況を、ご主人と一緒に乗り切ってきたそうです。
この動物病院の地下室での保護活動を始めたのが1976年。現在もシャパイロ氏が責任者を務める保護団体Northeast Animal Shelter(以下NEAS)の始まりでした。
NEASは東海岸のニューイングランド地方(コネチカット、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、メイン、ロードアイランドの6州)の中で最大の私営NO KILLアニマルシェルターとして、大きな成功を収めています。現在は、活動当初の10倍以上の広さの屋内施設と屋外の複数のドッグラン、自前の医療施設、30名の常勤スタッフ、15名のアダプションカウンセラー、400名以上のボランティアを擁する団体です。利用者の便を考えて、施設は年中無休で朝10時から夜の8時までオープンしており、地理的にもアクセスの良い場所にあります。
(photo by Elizabeth Thomsen)

この成功は1975年にルーイット氏がウォールストリートジャーナル紙に語った、「どんな犬でも...そう、たとえハンディキャップを背負った犬であっても適切な層に適切なアピールを効果的に行うことで、家族を見つけてやることは可能です。資金調達に関しても同じことです。闇雲に活動するのではなく、この原則に従って戦略を立てて活動を続けること。これが成功の鍵です。」という言葉を、シャパイロ氏が忠実に実行し続けた成果です。
上に揚げた2つの画像は、どちらもNEASがリホームした犬達の同窓会イベントの様子です。こうして犬の里親になった家族とつながりを持ち続けることで寄付金も集まり易くなりますし、また次に動物を迎える時にもこのシェルターからという動機付けにもなります。
動物達による地元の老人ホームの訪問サービスも、NEASの大事なプログラムのひとつです。老人ホームに連れて行くのは、知らない人に撫でられても大人しく振る舞うことが出来る、注意深く選抜された動物達です。訪問される側のシニアの皆さんの喜びはもちろんのこと、このようなプログラムに参加できるというのは、新しい家族を見つける上での大きなセールスポイントになります。
また、子供達を対象にしたバースデープランも実施されています。レクリエーションルームを子供のバースデーパーティーのために1時間最低150ドルで貸し出すというものです(貸出料は団体への寄付金とみなされるので、もっと大きな額を寄付するのも大歓迎です。普通にレストランなどを借りるのと違って、この出費は税金控除の対象にすることができます)。飲み物や食べ物の持ち込みは自由、子供達は施設の見学ツアーに参加することができます。つまり資金調達と地元へのアピール、そして次世代への教育活動が同時に出来るというわけですね。
これら様々な戦略を立て、実行し、分析し、継続して来た結果、NEASは活動開始以来10万匹以上の動物をレスキューし新しい家族へと送り出して来ました。現在ではシャパイロ氏のところに、かつて彼女自身がやったように「私もあなたのような活動がしたいんです。勉強させて下さい。」という問い合わせが入って来ます。
「そうやって問い合わせて来る人々に、私はかつて自分がルーイット氏から言われた同じことを繰り返しています。NEASと同じ規模で成功を収めようと思ったら、経営学の学位か、実際のビジネスの経験が必要不可欠です。一般社会に通用する常識も身につけていなくてはなりませんし、マーケティングを実行する知識も必要です。通常のビジネスを開業するのと同様に、少なくとも最初の5年間は利益が出なくても持ちこたえられるだけの経済的基盤を準備しておくことも必要です。昼夜、週末、祝日を問わず働かなくてはならないし、胸がつぶれるように辛いことがあっても前に進み続けなくてはならない。時には、助けが必要な動物がいても背を向けなくてはならないこともある。保護団体の運営は、優しい美しい心だけではできないのです。」
幸いなことに、ルーイット氏やシャパイロ氏のような視点や考え方での保護団体の運営は、少しずつ浸透して広がり始めています。そして大切なことは、こうして高いレベルでの活動が広まることで、一般市民の意識も変わっていくということです。
NEASでは、犬や猫をリホームする際、295~395ドルのアダプション料金を設定しています。ここには、避妊去勢手術、州外や国外からの動物の運搬費用、ワクチンやマイクロチップの費用が含まれ、また次の活動への資金にもなっています。我が家の犬達をシェルターから引き取った時にも250ドルと275ドルのアダプション料金を支払いましたので、これはごく一般的な料金設定だと思います。公営のシェルターなどであれば料金はもっと低くなりますが、シェルターから動物を引き取るからといって、それが無料であると思っている人はアメリカにはまずいないでしょう。
日本で動物達のために活動している団体を拝見していると、どこも皆、資金の捻出に苦労していらっしゃる様子が見て取れます。何もかもアメリカ流を取り入れる必要もないし、無理な面も多々ありますが、それでもマーケティングやマーチャンダイジングの考え方をベースに戦略を立てるという視点が日本のレスキュー活動にも浸透し、一般の人々の意識も変わっていくといいなと思っています。
dog actuallyの読者の皆さんの大半はレスキュー活動にも理解があり認識の高い方々だと思うのですが、活動に携わっている方からは「動物を"引き取ってあげる"のにお金を払うんですか!?と言われた」などの残念な声もよく耳にします。浅く広く寄付金を募ることも容易ではないため、会費制を導入しているグループも多いようです。
アダプション料金を負担して動物を迎えることは、ペットショップの動物にローンを組むよりもずっと気持ちがいいものです。寄付金は何も数万円、数十万円単位でするものではなくて、最寄りの保護団体や保護をしている個人の方にペットシーツやフードを差し入れることでもいいのです。
アメリカの大きな保護団体が歩んできた軌跡を伝えることが、日本のレスキュー活動の少しでもお手伝いになれば幸いです。

<参考書籍>
『Little Boy Blue』 by Kim KAVIN

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