2017/11/12

受刑者と犬のセカンドチャンス

働く犬のことを書きたいと思ったので、関連するdog actuallyの過去記事をアップしておきます。

この記事は2013年に書いたものですが、刑務所の受刑者がシェルターの保護犬を訓練するプログラムは現在も順調に増えています。
家庭犬としてのシンプルな訓練から、心的外傷を抱える退役軍人などをサポートするサービスドッグまで多彩なプログラムが展開されています。
フロリダの保安官事務所では刑務所で訓練を受けたサービスドッグを迎えて、犯罪被害者の事情聴取の際のサポートを担当してもらっている例もあります。精神的にダメージを負っている被害者、とりわけ被害者が子供の場合にはサポート担当のサービスドッグがそばにいるだけで、被害者の気持ちが和らぎ聴取がスムーズに進むそうです。

受刑者、保護犬、社会全体のすべてにメリットがあるプログラムはこれからも伸びていってほしいなと思います。

(photo by paulbr75 )


(以下dog actually 2013年7月1日掲載記事より)

つい先日、島根県の社会復帰促進センター(刑務所)から「刑務所育ち」の盲導犬第一号が誕生したというニュースが報道されましたね。現在、日本で犬の訓練を行っている唯一の刑務所です。
このような刑務所での受刑者による犬の訓練については、アメリカに一日の長があります。今日はアメリカの刑務所で暮らしている犬達のことをご紹介します。
刑務所で受刑者のためのプログラムとして犬の訓練が取り入れられたのは、1981年ワシントン州の女性刑務所が最初でした。当時、財政難のために満足な更正プログラムもなく、まともな運営も出来ていなかった刑務所の現状を見かねた修道女のシスター・クインがプロのドッグトレーナーと共同でプログラムを作り導入したのでした。
当初は盲導犬や警察犬候補の子犬達を受刑者がトレーナーと共同で訓練して、立派な職業犬に育て上げるという島根のやり方とよく似たプログラムでした。
一般的なトレーナーと違って、受刑者達は犬と24時間、常に一緒にいることが出来ます。その分訓練も早く修了することができ、受刑者達は責任感や達成感、そしてドッグトレーニングのスキルを身につけることができるというこのプログラムは、すぐに他州からも取り入れたいという声が多数届き、現在アメリカのほとんどの州で受刑者による犬の訓練プログラムが実施されています。
国内だけにとどまらず、シスター・クインはこのノウハウを伝えるべくヨーロッパにも出向いて、イタリアの刑務所などでプログラム導入の指導を行っています。
ワシントン州では当初は女性刑務所だけでこのプログラムを行っていたのですが、この2~3年の間に男性刑務所でも犬の訓練をスタートする所が出て来ました。
訓練するのは地元のアニマルシェルターから連れて来られた犬達です。預かり期間を過ぎても引き取り手がなく殺処分にするしかないという犬達が、受刑者によって家庭犬としての訓練を受けて新しい家族の元へと送り出されています。

一般のシェルターでは、問題のある犬一頭一頭にじっくり向き合って訓練するだけの時間も人手もないのが現状です。時間さえかければ良い家庭犬になる可能性のある犬達が、受刑者によってセカンドチャンスを与えられるというわけです。
犬達は平均12週間の訓練期間を過ごし、基本的なコマンドやトイレの躾、人に飛びつかない事、人間や犬同士の社会化を身につけるので新しい家族を見つける事はずっと簡単になります。
犬にとって素晴らしいだけでなく、受刑者が犬と暮らすようになってから刑務所内での暴力沙汰が著しく減少したことも報告されています。
全ての受刑者が犬の訓練プログラムに参加できるわけではないのですが、参加者の再犯率はほぼゼロに近く社会復帰も容易だと言います。これは社会全体にとってもありがたいことですね。
こちらはルイジアナ州の刑務所で暮らす犬達の動画です。

この刑務所では、刑務所の施設内にアニマルシェルターを作るという大胆な試みが成されています。
シェルターには犬だけでなく猫も収容されており、42匹の犬と17匹の猫を5人の受刑者とシェルタースタッフが世話をしています。
掃除、食餌の世話、運動、訓練と、1日のほぼ全てが動物の世話に費やされます。動物を引き取りたい希望者は直接この刑務所内のシェルターを訪れる事ができます。
あのハリケーンカトリーナの際には、避難してきた動物達を所内のシェルターで一時預かりし、受刑者達が米国動物保護協会と共同で動物の世話をしました。
いかつい外見の受刑者達が愛おしそうに犬を見つめ、犬も信頼し切った様子でリラックスする姿を見ると、確かに彼らがお互いに助け合っているというのが実感できます。

また、カリフォルニア州では少年院での犬の訓練プログラムを積極的に取り入れています。

ここでも犬達は、ローカルのアニマルシェルターから来ています。受刑者の年齢が若い分、犬を通して責任感や連帯感、そして愛し愛される事を学んだ彼らは、高いレベルでの社会復帰が期待できます。
社会復帰の助けと言えば、アリゾナ州の女性刑務所ではアニマルシェルターから来た犬達の訓練に加えて、犬のシャンプーやトリミングを行うグルーマーの資格をとる支援をしている所もあります。
シェルターの犬達は綺麗にしてもらって基本的な訓練も終えて、新しい家族の元へ送り出されます。出所後の受刑者が再犯に走ってしまう主な理由は、仕事が見つからず経済的に困窮してしまうことです。手に職をつけて刑務所を出ることが再犯率の低下に大いに役立っています。
これら刑務所の受刑者とアニマルシェルターの犬達を結びつける活動は、民間のNPO団体が間に入って仲介や指導を行っており、ほとんどの場合税金が使われることはありません。
残念ながら、アメリカ全体で見れば犬の訓練プログラムを取り入れていない刑務所も多く、全国の犯罪率も年々少しずつ増加しています。
素晴らしい可能性を持ちながらも引き取り手がなく殺処分となっている犬もたくさんいます。

受刑者にも犬にも社会にも大きなメリットのあるこのプログラム、アメリカでもますます広がっていって欲しいと強く願います。
そして日本でも刑務所と動物愛護センターのコラボレーションが実施されて、多くの人間と犬が救われる日が来て欲しいものですね。

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