2017/10/31

ペットショップ新条例、ロサンゼルス市の場合

先日、カリフォルニア州がペットショップで商業繁殖された子犬や子猫の販売を禁止する法律ができたことは、すでにあちこちで報道されています。詳細をこのブログにも書こうと思っていますが、その前に2012年に同様の条例がロサンゼルス市で可決された時の記事をアップしておこうと思います。

犬のこととは別だけど、記事の冒頭が大統領選が終わったという件で始まってることに隔世の感。たった5年前なのにねえ。オバマ大統領が2期目を決めたばかりだった頃ね。あぁ、あの日に帰りたい...。




(illustration via comicvector )

(以下dog actually 2012年11月12日掲載記事より)

熱狂のアメリカ大統領選は幕を下ろしましたが、そのちょうど1週間くらい前にカリフォルニア州ロサンゼルス市で、ある条例が可決されました。
条例の内容は、ロサンゼルス市内にあるペットショップ、その他小売店や商業施設において、営利的に繁殖された犬、猫、うさぎを販売することを禁止するというものです。

新しい条例の条文では「営利的に繁殖された犬・猫・うさぎの販売は、行くあてがなくアニマルシェルターで命を終える動物が増加する一因となっている。
これら営利的に繁殖された犬・猫・うさぎの店頭での販売を禁止することは、アニマルシェルターにおける動物の殺処分率を低下させ、譲渡率を上昇させるために有効である。」と述べています。
ここで言う「営利的に繁殖された犬・猫・うさぎ」と言うのはパピーミルやキティファクトリーと呼ばれる大規模で非人道的な商業的繁殖施設や、
無許可で繁殖〜販売を行うバックヤードブリーダーのことを指します。
条例の施行は来年の6月からで、それ以降は実質的にロサンゼルス市内で犬・猫・うさぎの生体展示販売を行うことは違法となります。条文では「ただし、公営のアニマルシェルターまたは市の認可を受けたNPO団体やレスキューグループから来た動物は除く」とされています。これはもちろん、アニマルシェルターから動物を仕入れて店頭で販売するという意味ではなく、現在もう既に大手のペット用品店チェーンが行っているようなシェルターの動物の譲渡会のことを指しています。ペットショップが店頭で保護動物の譲渡会などを行う場合は、正式に認可されている団体から来ている動物であることを示す証明書を呈示することが義務づけられます。
同様の条例は北米の他の都市でも数多く施行されていますが、ロサンゼルスはその中でも最大の規模の自治体であるため、他の州の自治体への影響も大きく、現在シカゴでもロサンゼルスと同様の条例が検討されているところです。
しかし、この条例案が可決されるまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。当然ながら小売店側からの反発もあり、またペットショップでの動物の買い手である一般市民からも「動物をどこから手に入れるかは市民の自由であるはずだ」という声もあがっていました。
条例案は長年にわたって動物福祉に力を尽くして来たポール・コレッツ市会議員を中心に作られて来ました。また今回の条例可決に大きな役割を果たしたのは、全米で最大の規模の私営動物保護団体ベストフレンズアニマルソサエティでもありました。
(ベストフレンズアニマルソサエティとロサンゼルス市のコラボレーションについては、この記事で詳しく書いています)
同団体のパピーミル対策部門責任者であるエリザベス・オレック氏は、コレッツ市会議員とともに市長や市検事に2年半に渡って働きかけてきました。そこには、パピーミルへの潜入調査の報告なども含まれています。このペットショップ新条例は、議員と民間団体、それを応援する市民の声、そして行政の共同作業の賜物なのです。
店頭での動物の販売を禁止するこの条例では、許可を得て個人で活動しているブリーダーは対象になっていません。ロサンゼルス市では犬や猫を繁殖して販売をする場合、動物1頭につき年間120ドルの料金を支払って許可証を発行してもらわなくてはなりません。許可証は1家庭に対して2通まで発行され、1頭の動物は1年に1回の繁殖しか許されていません。
許可証申請以前の90日以内の間に動物が獣医での健康診断を受けていること、過去に動物虐待やネグレクトの前歴がないことなどの条件が課せられ、さらに、出産後は産まれた犬や猫が生後8週齢に達するまで母親から離すことの禁止、ワクチン接種をしていない幼齢動物の販売や譲渡の禁止といった規制もあります。
これらの要件を満たさずに動物の繁殖を行い、売買することは、違法なバックヤードブリーダーとみなされ取り締まりの対象となります。
2013年6月以降、ロサンゼルスにおいて犬が欲しいと思った人はシェルターや保護団体からアダプトするか、責任ある個人ブリーダーから直接子犬を購入するか、どちらかの選択になるということです。
2011年度のロサンゼルス市のアニマルシェルターに連れて来られた犬の数は約35,000頭、猫は約22,000頭。そのうち、犬の25%、猫の57%が殺処分となっています。治療のできない病気や怪我、改善不可能とされた問題行動などの理由よりもずっと多い主な殺処分の理由は、「貰い手がみつからない」というものでした。
健康で、人間の素晴らしい伴侶になる可能性のあった動物達が無駄に命を落とすことがなくなるよう、条例が正しく運用され、幸せな動物と人間が増えることを願って止みません。

ベストフレンズアニマルソサエティと、その新しい試み1

dog actuallyにてベストフレンズアニマルソサエティのことを初めて紹介した時の記事です。
アメリカの動物保護のことを書こうと思うと、マディ基金とベストフレンズのこと抜きには始まらないのでね。

どちらも規模の大きな組織なので批判意見もあるけれど、救われている人や動物がたくさんいるのも本当だし、ASPCAやHSUSとは違う方向のアメリカの大規模組織のこと紹介しておきたいというのは今も思っています。
真似してほしいとか、こうあるべきとか言うのではなく、他の事例を知っておくことって大切ですもんね。

長かったので2つに分けています。


ベストフレンズアニマルソサエティが発行している案内と教育用のリーフレット


(以下dog actually 2012年2月27日掲載記事より)

ベストフレンズアニマルソサエティはアメリカはユタ州ケナブという街に本拠地を置く動物保護団体です。BEST FRIENDS ANIMAL SOCIETY
ケナブの国立公園の中にベストフレンズアニマルサンクチュアリという世界最大級の保護施設を擁し、犬、猫、うさぎ、馬、山羊、豚、鳥類、その他野生動物も含めて常時約2000匹の動物が施設で暮らしています。施設の敷地面積は3万3000エーカー(約4千万坪)東京ディズニーランド260個分以上と言うと、そのけた外れの広さが想像いただけるでしょうか。
ベストフレンズはNo Killをポリシーとする保護団体で、地元ユタ州を始め多くの地域をNo Killコミュニティとすることに力を注いでいます。No Killというのは書いて字のごとく殺処分を行わないという意味です。病気や怪我で治療の施し様のない動物を苦しみから解き放つための安楽死以外は、どのような理由があっても動物を殺さないというわけです。
攻撃性が強過ぎるなど、里親募集が不可能と思われる犬は多くの動物シェルターでは殺処分となるのが普通ですが、ベストフレンズではそういう動物も受け入れ、最大限のリハビリを施します。(それだけのノウハウも人材も設備も揃っています。)最終的に新しい家族を見つけることができなくても、動物は快適な環境で十分なケアを受けながら一生を施設の中で過ごします。
精神的なリハビリが困難な動物、高度治療が必要で普通のシェルターでは対応できない動物などが全国からベストフレンズに連れて来られ、心と体のリハビリを受けています。
ベストフレンズには立派な設備のクリニックが設けられ専属の獣医師が複数常勤しています。治療が可能で回復の見込みがあるならば、どれだけの費用がかかろうとも必ず治療するというのもポリシーのひとつです。施設内のクリニックで対応し切れない場合は専門医への協力も依頼します。
施設の運営は全て民間からの寄付でまかなわれていますが、寄付の集め方は単純に現金や小切手を集めるだけでなく、さまざまな工夫がなされています。団体の活動内容をドキュメンタリーにした書籍や雑誌の出版、魅力的なキャラクターグッズの販売、施設の見学ツアーの実施などが積極的に行われており、人の目が集まって、それにつれて資金も集まって来るという仕組みです。
サンクチュアリの中で犬達が暮らしている場所は「ドッグタウン」と呼ばれ、犬達がリハビリを受けながら新しい家族に引き取られるのを待っています。
ナショナルジオグラフィックチャンネルでは2008年から2010年まで「ドッグタウン」というタイトルで、ここに暮らす犬達や世話をする人々のドキュメンタリー番組を放送していました。日本でも放送されていたのでご存知の方もいるかと思います。番組は現在でも繰り返し再放送される人気番組で、ベストフレンズの知名度を上げ寄付金を集めるのに大いに貢献しました。
ドッグタウンに暮らす犬達は2~3頭で1つの犬舎をシェアしています。犬舎には小さなドッグランと屋内の寝室がついており、いつでも中と外を行き来できるようになっています。広大な敷地には山も川も谷も平原もすべて揃っているので、散歩や運動には事欠かない犬にとってはパラダイスのような場所です。
このユタ州のサンクチュアリだけでなく、ベストフレンズは全米各地で地元の保護団体とのコラボレーション企画も多く行っています。犬や猫の譲渡会、ドッグウォークなどのイベントは知名度の高いベストフレンズの名前があれば集客率が大きく変わります。小さく経験の浅い保護団体には運営のノウハウの指導も行い、アメリカ全土をNo Killの場所にして、ホームレス動物がいない世界を作るというのが彼らの目標です。
こちらはベストフレンズ制作のドッグタウンの紹介ビデオです。



ベストフレンズアニマルソサエティと、その新しい試み2




(以下dog actually 2012年2月27日掲載記事より)

ずいぶんと長い前置きになってしまいましたが、このベストフレンズアニマルソサエティがロサンゼルスで新しい試みをスタートさせました。
私営の動物保護団体として初めて、公の自治体と共同で動物保護施設の運営を始めたのです。
2012年2月16日、ロサンゼルス市北部のミッションヒルズにベストフレンズペットアダプション/避妊去勢手術センターがオープンしました。
この施設は2008年にロサンゼルス市が市営の動物シェルターとして1900万ドルをかけて建設したのですが、自治体の財政難による予算カットのため、十分なスタッフを揃えることが出来ず、ほんの申し訳程度にしか利用されていませんでした。
それに対してベストフレンズが「全ての運営費用を負担するので、この施設を市とベストフレンズの共同シェルター兼避妊去勢手術クリニックとして運営させてもらえないか」と提案をしたのです。 
市としては財政負担なしで施設の活用が出来、他の市営シェルターの犬や猫の移送もできるということで、議会の大多数の賛成を得てこの提案を承認したのが2011年8月のことでした。
その後、様々な手続きやインテリアの変更などを経て、つい先日センターはグランドオープンを迎える事が出来ました。オープンの日には市長やベストフレンズサポーターのハリウッドセレブも駆けつけての華やかなレセプションが開かれたようです。このオープンの日だけで合計30頭の犬や猫に新しい家族が見つかったそうです。
我が家からそう遠くない場所ですので、オープンの日ではありませんが私も見学に行って参りました。

センターの入り口部分。カリフォルニアらしいスペイン風を模したお洒落な外観。入ってすぐの受け付けや案内のコーナーも明るく洒落た雰囲気。インテリアは有名デザイナーの手によるものだが、これもデザイナーからの「労力の寄付」という形で無償で行われている。



現在この施設には犬が109頭、猫が35頭、新しい家族に引き取られるのを待っています。犬も猫も清潔で毛並みも良く、落ち着いた様子をしているのが印象的でした。ストレスフルに吠え立てる犬はおらず、犬舎に近寄ると好奇心から少し吠える犬がいる程度でした。
スタッフやボランティアの数も多く、特にスタッフは皆とてもフレンドリーで感じが良く、知識も豊富です。こちらが犬を見ていると、すぐに声をかけて犬の性格や特徴を詳しく教えてくれました。つまり犬達はきちんと個性を把握され、目も手も行き届いているわけですね。
また安価で避妊去勢手術を提供するクリニックがあるため、医療関係者の数が多いのが目につきました。


ゆったりくつろぐロットワイラー。左手前は水飲み器、後ろが寝室。もともと市の施設として作られたので、残念ながら犬舎は「ドッグタウン仕様」ではない。大型犬は一頭ずつ、小型犬は2頭で犬舎をシェアしている。


犬舎から運動場などに自由に行き来することはできませんが、スタッフやボランティアが入れ替わり立ち替わり犬達を散歩に連れ出していました。
施設内には散歩用のトレイルが設けられていて、里親希望者と犬のお試し散歩用にも使われます。
また近くには大きな公園もあり、犬の施設としては悪くない周辺環境でした。
犬や猫を引き取る際には、避妊去勢手術やマイクロチップの諸経費として100ドルがかかります。
里親希望の人とじっくり話をするためのコンサルタントルームも設けられ、シェルターから動物を引き取るのが初めての人でも色々な相談に親切に応えてもらえます。
何よりもその場のオープンで明るい雰囲気と親しみ易いスタッフの応対が来訪者に安心感を与える感じでした。

アメリカでも1、2を争う有名保護団体であるベストフレンズと、メジャーな大都市であるロサンゼルス市のコラボレーションは今後アメリカの他の自治体にも影響を与えていくであろうと大きな注目を集めています。
立派な設備は持っていてもそれを活かす運営のできない自治体と、運営のノウハウは持っていても新しい設備を建てる資金力を持たない保護団体。お互いが垣根を取り払って協力できれば、税金の無駄遣いも抑えられ、多くの命が救われることにもなります。
日本や他の国でも参考になる部分があればいいなと思います。

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