2018/02/20

特定犬種規制法〜規制すべきは誰なのか?

2012年に書いた記事ですね。当時あちこちで大きく取り上げられた北アイルランドのレノックスの話から書き始めています。
アメリカにおいては特定犬種規制法は非常にゆっくりとしたペースで廃止されつつあります。あまりにゆっくり過ぎてほとんどわからないくらいで、社会全体としてはピットブルタイプの犬たちへの偏見も変わっていないなあという気はします。
日本ではまだ特定危険犬種という概念自体を知らない人も多いような印象ですが、それが良いことか悪いことかは私も判断しかねています。
でも犬の飼い主に限らず一般常識として「咬まない犬種というものはない。犬の問題行動を引き起こすのはほとんどの場合は人間の責任」ということは多く知れ渡って欲しいと思います。


(dog actually 2012年8月20日掲載記事より)

(photo by Lexus2D) 『差別ではなく教育を』


1ヶ月程前のことですが、日本のオンラインニュースなどでも取り上げられた、北アイルランドの特定犬種規制法のニュースがありました。レノックスという名のピットブルタイプの犬が規制法に抵触したために飼い主から取り上げられ、殺処分されたというものです。ラブラドール×ブルドッグミックスのレノックスは「見た目がピットブルに似ていた」という理由で殺処分となりました。咬傷事故歴も脱走歴もなく、DNA検査で禁止犬種の血は入っていないことも証明されていたというのに。
私の住むアメリカでも、この件は愛犬家を中心に大きな関心を呼び、特定犬種規制法(Breed Specific Legislation=BSL)に対する反対運動の気運が高まってきています。
アメリカの法律のことをお話する時いつも書いているように、アメリカでは州ごとに定められてる法律が違います。アメリカ全土を共通してカバーする連邦法においては、犬種を規制するための法律は設けられていません。特定犬種の飼育を規制する、又は犬種規制を禁止する法律は各州ごとに州法で定められます。州法に特に定めがない場合、郡や市ごとの条例で犬種規制法が設置されている場合もあります。
アメリカでは現在、コロラド州、フロリダ州、イリノイ州、メイン州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、オクラホマ州、ペンシルバニア州、テキサス州、バージニア州の11州が、それぞれの地方自治体に対し特定犬種規制法を制定することを州法によって禁止しています(コロラド、フロリダ等は地方自治特例により、一部特定犬種の飼育を禁止している自治体もあります)。
カリフォルニア州も特定犬種規制法を制定することを禁じている州ですが、特定の犬種に対して避妊去勢処置を義務づける条例の制定は許可しています。また2012年10月には、マサチューセッツ州で特定犬種規制法を禁止する州法がスタートする予定です。
現在は特定犬種の飼育を禁止する条例を制定している郡や市の中にも、犬種規制法を見直すための住民投票を行ったり、その結果、条例を廃止する自治体も少しずつ増えてきています。犬種で危険度を判断するのではなく、それぞれの犬の行動や飼育環境に焦点を当て、危険かどうかを判断しなくてはいけないという動きがあるのは喜ばしいことです。

規制犬種の定番ピットブルやロットワイラーの他に、ジャーマンシェパードやドーベルマンが規制対象となっていることも少なくない。見た目が似ているということだけで飼育が禁止され連行されて殺処分されてしまうような自治体であれば、我が家の犬だって十分に対象になり得るのだ(実際この体重13kgの犬がドーベルマン雑種ということで、うちの家の保険料は割り増しになっている)。生まれた場所がLAだったから良かったものの、ひとごととは思えなくて特定犬種規制法には本当に胸が痛む。規制犬種は他にアメリカンブルドッグ、マスティフ、ダルメシアン、チャウチャウ、秋田犬、これらの雑種が含まれることもある。
アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)でも、特定犬種規制法が役に立たず無駄であるだけでなく、却って公共の安全を脅かすものであるとアナウンスを続けています。
ASPCAがあげる特定犬種規制法の問題点は
  • 規制犬種を飼育している飼い主が、犬を人目につかないようにするため屋外に連れ出さず、犬の登録やマイクロチップの処置もせず、必要な医療措置さえも避けるようになり、結果としてストレスを溜めた犬は公共の安全と犬自身の健康の両方にとって危険なものとなる。
  • 特定の犬種を規制した場合、ほとんどの場合犠牲になるのは責任を持って犬を飼育している飼い主と、攻撃性も事故歴もない無実の犬である。飼い主は法的な闘いのために精神面と経済面で多大な負担を強いられ、最悪の場合は犬の命も奪われる。
  • 犬種を規制することにのみ公共の資源(人手や税金)が使われ、本当に規制されるべきことがおろそかになって公共の安全を脅かす。犬の登録、リードの着用、闘犬の禁止、つなぎ飼いの禁止、避妊去勢処置の徹底、これらは犬種の規制よりもずっと大切で効果的な安全措置である。
  • 特定の犬種を禁止することで、かえってその犬種に価値を見出す無責任な人間を喜ばせることとなる。禁止犬種のアウトローなイメージを自分達に重ね合わせたギャングメンバーの間でピットブルの飼育が増えたのが、格好の例である。
犬の咬傷死亡事故の件数などを管理しているアメリカ疾病予防管理センター(United States Centers for Disease Control=CDC)は、咬傷事故と犬種を関連づけることに意味を見出さず、かえって規制犬種以外の犬による咬傷事故を招きやすくする可能性を指摘しています。このことからCDCは犬種規制法を支持しないとの決定を下しています。
CDCでは、咬傷事故に関して犬種よりも顕著ないくつかの傾向も示しており、その中でも特に目につくのは避妊去勢処置の有無、社会化とトレーニングの有無であるとしています。
具体的には
  • 咬傷事故の70%以上は未去勢の雄犬によるものである。
  • 未去勢雄犬の咬傷事故件数は去勢済み雄犬の2.6倍にのぼる。
  • つなぎ飼いの犬による咬傷事故件数は、つながれていない犬の2.8倍にのぼる。
  • 咬傷死亡事故を起こした犬の97%は避妊去勢処置がされていなかった。
  • 咬傷死亡事故を起こした犬の78%はペットではなく、護衛、闘犬、繁殖などのために飼われていた。
  • 咬傷死亡事故の84%は飼い主の無責任な行動が引き金になっていた。虐待、ネグレクト、監督無しに子供と接触させる、等。
アメリカにおいては、避妊去勢処置は飼い主の責任であるという意識が一般的なので、避妊去勢処置をしていない層と社会化やトレーニングをしていない層が重なる部分が大きいのも上記の数字の一因ではないかと、個人的には考えています。
これらの傾向を見れば、規制すべきは犬ではなくて、飼い主である人間の行動であることがよくわかります。
日本ではいくつかの県で特定の犬種の飼育に関して規制する条例がありますが、その規制自体が「犬の係留義務」「檻、囲い等の障壁の中で飼養」など、上記の咬傷事故を誘発する事例に当てはまるものです。
規制すべきは犬種ではなく、犬の飼育環境やトレーニングのやり方を決める人間の方であると世界中の国で認識されて欲しいと切に願います。それこそが無意味に殺処分される犬をなくし、犬による不幸な事故を減らしていくことにつながると考えます。

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